●文久元年…沖田17歳・はつみ20歳
―江戸―
季節外れの春
6月15日、天下祭の一つとされる『日枝神社大祭』で江戸は賑わっている。沖田は祭を見た後暇つぶしに神社へと立ち寄り、居合わせた子供達と適当に戯れていた。そこで美しい純白の鳥と出会い、季節外れの春に遭遇する。
再会・確信
7月。名も知らぬ人との忘れられない出会いから、ひと月も経たぬ内に再会へと至る。いつもの様に厳しく稽古をつけていた所に、井上によって道場の見学にと通された寅之進とはつみの姿が見え…はつみと目があうや否や、門人から強烈な面を食らってしまうのであった。
詳細
しょっぱなから情けない姿を見せてしまったと落ち込む一方、再会できた上に彼らがここの門人となるという接点ができた事に一喜一憂の沖田。『試衛館塾頭』として改めて自己紹介し、そこで彼女の名は桜川はつみであると知り…第一印象の『春の桜の様な人』の回想がそのまま名に映し出されている事に内心感動すら覚える。そして彼女の側で彼女を『守る』同年代の青年は池田寅之進で、彼がこの試衛館の門人となる様であった。
お見舞い
8月。江戸をまだよく知らない寅之進が、精のつくものはどこで手に入るかと沖田に訪ねる。理由を聞くと、はつみが慣れない組稽古をして寝込んでしまった為この後見舞いに行くのだと聞き、無理矢理ついていく事に。居合わせた永倉も噂に聞く『男装の麗人』とやらを拝みたいと言って同行する事となった。
夏まつりR15
8月15日、深川八幡祭(深川祭)水掛け祭。寅之進から『はつみが沖田を誘っている』と言われ、大喜びで合流する。ほかに数人土佐の者が合流していたが、中でも驚いたのは桶町千葉道場の千葉佐那子がはつみと同じ様に男装を決め込んでお忍びで来ていた事だった。それでも佐那子は控え目であったが、はつみは驚く程あけっぴろげで活発、そしてやっぱり春の陽の様に華やかで気さくな人である事を知る。そして沖田は、大いに水に濡れたはつみの姿を目の当たりにして息が止まりそうな程硬直してしまう。人生で初めて、女性の身体というものを男として意識した瞬間であった。
天然理心流四代目襲名披露…前編・後編
8月下旬、武蔵総社六社宮にて天然理心流宗家四代目襲名披露のための野仕合が行われる。招待を受けたはつみは沖田や寅之進らと合流し、共に多摩へと向かった。
詳細
この頃になると試衛館食客らの中で沖田の『初恋』に察しが付いていない者はおらず、それは近藤やつね、井上らにとっても同様であった。野仕合では藤堂や原田といった者達も加わり、はつみも男装をしたまま急遽『赤組』に参加する事になる。本陣で太鼓係を務める沖田ははつみが怪我でもしないかと気が気でない様子だったが、はつみの出る幕もないほどにあっけない程の紅組圧勝で一試合目が終わってしまう。これでは何の盛り上がりもなく野仕合が終わると懸念した近藤は、第二試合が始まる前に「総司、お前も参加してこい!」と言って急遽白組参加となる。
気合の入った沖田は試合が始まるなり猛烈な勢いで紅組勢を突破し、土方、藤堂、原田という謎の新顔、山南を撃破。はつみの前に立ちはだかった寅之進も一瞬で打倒し、この有志を魅せる事でかつてはつみの目の前で門人に面を抜かれるという雪辱も果たした。剣術など到底できもしないはつみは引きこもっていたが事ここにきて沖田と対峙する事となり、爛々と目を輝かせる沖田から「いざ、しょうぶ!」と声を掛けられ腹をくくり、見よう見まねで竹刀を構えた。
…見つめ合う中で、沖田は自分が今何をしているのか、立っているのか横になっているのか浮かんでいるのかも分からない様な感覚に陥ってしまう。それが魅了状態であるという事は気付いておらず、異様な見つめ合いに周囲の皆が固唾をのんで見守る中、沖田の「初恋」をしる試衛館食客らは思わず笑いを漏らしそうになってしまう。
そして次の瞬間、素人極まりないはつみの面が信じられない程綺麗に沖田の額にある瓦をかち割るのであった。
移りゆく季節
9月。暑さは徐々に去りゆき、日によっては秋を感じさせる爽やかな風が江戸のまちを通り過ぎていく。かたや天然理心流宗家四代目襲名披露の野試合でこれ以上ない程に心を掴まれ、かつ失態を晒した沖田の心中はパッとしない曇り模様もいいところで、暇さえあれば庭先の土に永遠に八の字を書き続ける程であった。近藤や井上が、そんな沖田を暖かく見守っている。
横濱にて
9月末。はつみ念願の横濱訪問の日程が決まった。先日の天然理心流四代目襲名披露へ招待してくれたお返しにと沖田にも声がかかり、ごちゃごちゃした心を払拭して同行を願い出る。はつみが横濱へ行く理由、天下をゆるがす『尊王攘夷』といった思想と『開国』、そして横濱で見せた驚くべき才能…。新しい、否、はつみに初めて出会った時にも感じた『どこか浮世離れした』その姿をしげしげと目の当たりにする。そして寅之進が『はつみに付いていく』とする、その真の姿も…。幼い頃から剣一筋で日頃世間の事に疎くさほど興味もなかった沖田は、『世界』という文化に触れて刺激を受けた事は勿論、はつみ達が見据える視線と自分の視線の違いにも気付かされ、唖然とした。
春画騒動…前編・後編R15
10月。浮かない様子の沖田に原田が『男の解決法』を伝授するところから、この災難が始まる。
好敵手
11月。試衛館の井戸端にお年頃の青年剣士が並んで立っていた。この四人は偶然にも同年の1844年生まれ、数え17歳だ。柔軟性に長けてはいるが世間知らずな天才剣士の沖田と超がつくほど真面目で堅物な寅之進の二人に、勝ち気で利発な藤堂が真正面から斬り込んでいく。「お前ら、好きな女いるよな?」そこから出て来た桜川はつみという名に対し、寡黙ではあるが洞察力は随一である斎藤が、江戸の町あるいは千葉道場近辺で見かける土佐藩絡み男装の女とその周辺にいる『男の影』について、情報を提供する。
独占欲
11月。世間では京の都からやってきた帝の妹君・和宮様の江戸入りで大賑わいであるというのに、沖田はまた冴えないため息を付いていた。『物を知らない』にも程があると自分に嫌気がさし、その一方で『知った』事で視界が広がり、気付かなくてよかった事にも気付かされていた。…そう、はつみの周りにいる『男』の多さに。
女傑評議3R18
11月末。近藤と山南、井上が揃って外出したこの日、急遽、沖田や寅之進の為にと『女を学ぶ会』が開催された。主催兼講師は永倉と原田。原田は教材の提供(春画)も行った。特別講師に百戦錬磨と噂の土方、参加者は藤堂、斎藤、寅之進、沖田。女を知り尽くしたという土方特別講師はこう言う。「桜川?…中の下ってとこだろ」「まぁ抱いてくれってアイツから言ってくるんであれば、抱いてやらねぇ事もねぇけどよ」…学び舎に嵐が吹き荒れた。
想いの深さ故にR15
12月。はつみの江戸遊学期限が近付き、立て込んだ日々を送っている様だった。必然的に彼女と会う機会も減り、沖田ははつみがもうすぐ江戸からいなくなるという目の前に迫る事実にやるせない思いを抱かずにはいられなかった。ある日野暮用があって町を歩いていると、はつみが見知らぬ男性と路上で話しているのを見かけた。相手はすらりと長身の、しかし見た目では剣や体術が得意そうには見えない、垂れ目の優男だ。年齢は沖田と同じぐらいだろうか。思わず反射的に身を隠し『また別の男と一緒にいる…』と燻り始める。心を示し合わせた様に走り去っていく二人を、沖田は思い切って尾行する事にした。
伝えたい想い
12月下旬。その日は兼ねてより寅之進から誘われていたはつみの送別会であった。主催である寅之進はあれこれと手続きをこなしつつ、心配そうにとある席に置かれた手つかずの膳へと視線を投げていた。会場であるこの部屋には既に様々な顔ぶれが揃っていたが、招待したはずの沖田はまだこの場にいない。そしてはつみから聞くに、沖田の様子が目に見えておかしくなっ『あの日の夜』から今まで、彼には会っていないという。…会っていない理由も、寅之進ははつみから聞いていた。
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