本当に、いつも通りといえばいつも通りなのだろうが…なんだかやっぱり、
寅之進の様子がおかしい。
は野菜籠を持ったまま、寅之進の瞳の奥を探る様にじっと目を見つめた。
の真意に気がついたのか…やはり何か隠すところがあったのだろう。
寅之進はとたんに動揺した様に視線をそらし、一方的に別れを告げて
その場を去ろうとした。
「待って!どうしたの寅クン、様子がおかしいよ…!」
鋭く引き止めるの声にハタと立ち止まる寅之進。
しばらく背中を向けたまま俯いて、両手に拳を作って震わせていたが……
「―あっ…」
寅之進が突然振り返って駆け出したかと思うなり、が抱えていた野菜籠は
野菜を地面にばら撒きながら宙を舞っていた。
それをフォローする事ができなかったのは、野菜籠の代わりに寅之進自身が
の腕を占領していたからである。
まだ幼い少年だと思っていた寅之進の腕が男性の力を持っての背中を抱き寄せ、
突然の抱擁にハッと息を呑んだ瞬間に、寅之進はすでにを開放し、
顔を隠す様にして坂本家の裏門から走り去ってしまっていた。
…散乱する野菜を足元に呆然と立ち尽くすは、予想もしていなかった
あまりに突然すぎる出来事に、しばらくそこから動けないでいた…
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