※お試し小説※



藩邸内へ通され部屋で待っていると、いつも通り、涼しげで麗しい姿の桂が現れる。
「やあ、殿。…ひょっとして、別れの挨拶に来てくれたのかい?」
「あはっ!そうなんです〜。明後日、土佐へ帰る事になって…。」
の正面に座った桂は、当然、彼女の帰省の理由が土佐勤王党に関係ある事を知っていた。
そして自身が土佐勤王党に加盟していない事も既に知っているらしい。
「いや…出会ったばかりの頃はまったくの無名だった君が、たったの二ヶ月の内にここまで
 名に聞く人になるとは思わなかった。君が女性であるから目立っていたというだけでなく、
 時代を見る志士としての才覚が、君にはしっかりと備わっているという事だね。」
長州の桂小五郎にここまで言ってもらえるのも、客観的に考えればすごい事である。
実際かなり自信を持って良いという事なのだろう。
素直に自分に拍手を送りたくなるというだけでなく、ただ単に、物腰やわらかく美しくて
優しい笑顔で称えてくれるという条件だけで、乙女としてはかなり舞い上がってしまいそうだ。
「え、そ、そうですか…?なんか、桂さんにそんな風に言われちゃうと、照れます!」
単純に照れたはごまかした様に冗談を言って笑って見せる。
「ふふ・・・」
と上品に笑った桂は、穏やかな表情のまま話を続けた。
「いや、冗談なんかじゃないさ。…武市殿や坂本君が、君を手放したくないという気持ちは
 私にも良くわかるんだ。」
「いや〜〜…手放したくないとか、多分そんなんじゃないと思いますケド…」
「ふふふ。だって、私も彼らと同じ気持ちだからね。」
「え、ええ?…もー、あの、あんまり冷やかさないで下さい…。」
冗談でも、なんだか口説かれている様な優しくて甘い言葉をかけられるのは
応対に困ってしまう。相手が龍馬や内蔵太の様にツッコミやすい人間ならば話は別だが、
桂に勢いよくツッコミを入れたりするなんて、とてもじゃないができるわけがない!
そんなわけで反応に困り、単純に照れて頬を赤くしながら反応を示すであったが、
それでも桂は『冗談じゃないから』とばかりに話を続けるのだ。
花の様に可憐なと戯れるのも悪くはないが、を手放したくないという気持ちは
戯れではないと説明し始めた。
「(か、桂さん…もしかして…私の事………ウソォッ!?)」


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