しかし彼は、笑顔でかけてきたを見るなり不満そうに眉を潜める。
「あ〜?なんだよ、オマエ本当に普段からそんな格好してんのかよ〜」
「はっ!?何が!?」
いきなりド失礼なことを言う陸奥に、も眉間に皺を寄せて食って掛かった。
『ソレだよソレ』と顎でさされたのは、の衣類だ。なんでも普通の女の格好を
して出てくると勝手に期待していたらしく、非常に拍子抜けしたとか。
「そ、そんな事知らないわよ!そっちが勝手に妄想してたんでしょっ!」
「妄想〜?誰がオマエの事なんか妄想するかよ。想像してたんだよ」
「おんなじでしょッ!!!」
まるで近所にすむ幼馴染のワルガキみたいなヤツだと思う反面、
憎まれ口を叩きながらも不思議と悪い気はしなかった。
出会ってまだ間もなかったが、なんだか気兼ねなく話せる友人の様なノリだ。
ああ言えばこう言う陸奥に息をついて区切りをつけたは、とりあえず何か
用事があってきたのかと尋ねる。
「まさか着物姿を見にきたってだけじゃないでしょ」
「当たり前だろ。」
間髪入れず返され、ぐうの音も出ない。
「ちょっと付き合ってくんねぇか。女の格好してる方が都合が良かったが…まあいいや。」
一方的にそう言って、玄関を出ようとする。
慌てて追いかけ、草履を履きつつもは陸奥に問い掛けたが、
行きたい店があるんだとしか伝えられず、結局はブーたれて口元を尖らせたまま、
見送りに出てきた女将に別れを告げて彼の後を追うのだった…
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