「僕の名は…」
そう言いかけて、不意に口を閉ざし、俯いた。
気品のある端整な顔立ちが少し悲しげに影を帯びた後、
再びへと視線を向けると苦笑がちに小さく微笑む。
「ルシファ…と名乗っています。」
「名乗って『いる』って?あだなって事?」
自己紹介をするには少々不自然な言い回しに、は素直に小首をかしげた。
その様子にまた小さくくすりと笑った少年は、「驚かないで」と
優しく念押しをして話を続ける。
「本当の名はわからないのです。僕には過去の記憶がありませんから。」
「え…えっ!?」
記憶喪失…という人をはじめて目の当たりにしたは目を見開き、
念押しされたにも関わらず明らかに動揺した様子を見せ、
しどろもどろしながら次に発する言葉を捜している。
だがルシファと名乗った少年は、好意を感じさせる笑顔で詳細を話してくれた。
「僕もあなたと同じ。二月ほど前、気がついたら見知らぬ土地にいました。
ですが僕の場合、人生の主な記憶がなくなっていました。
自分が何者で、今まで何をして生きていたのか…。
自分が何者かと考えた時にフと思い浮かんだのが、この「ルシファ」という
名称でした。きっと何か別の名称なのでしょうが、これを名とする事にしたのです。」
「ルシファって…」
別の名称として聞いたことがあるのを、は思い出した。
ルシファといえば、堕天使として有名な「ルシファー」を連想させる。
…目の前にいる少年の変わった衣装には、よくみれば十字架の刺繍が
所々に施されているし…胸元にはさりげなくロザリオが見え隠れしている。
…何か関係があるのだろうか?
「(うーん…)……ん?」
気づくと、ルシファの澄み切った青い瞳がまっすぐにを見つめていた。
一気に思考停止させられる様な引き込まれる瞳にハッとしたに、彼は問う。
「何かご存知なのですか?」
「え?あ、いや…ううん!なんでもないよ!」
ルシファ−について特に深く考える事もなかったし、ただの思いつきだと
思ったのでとっさに話を打ち切ってしまった。
ルシファも「そうですか」と気にしている様子はなく、それどころか
腰に携えていた刀の様なものを鞘ごと取り出すと、それをに差し出して
自ら話題を変えてきた。
「それはそうと、さん。
あなたの様な方が丸腰では危険かもしれません。
物騒ではありますが、せめてこの刀で御身をお守り下さい。」
「へっ!?か、刀!?本物!?!?」
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