―表紙― 登場人物 物語 絵画

暴れ牛





※仮SSとなります。 プロット書き出しの延長であり、気持ちが入りすぎて長くなりすぎてしまった覚書きの様なもの。
途中または最後の書き込みにムラがあって不自然だったり、後に修正される可能性もあります。ご了承ください。



9月はじめのとある日、桂の訪問を受けるはつみ。公武合体を望む帝は長州藩長井雅樂の『航海遠略策』を良策とし、これが名実ともに主要藩論となるだけでなく朝廷幕府の両方から信を受ける事態となっていた。水戸との『成破の盟約』を果たさんと画策する桂や久坂、そして高杉らは焦燥を極め、事ここに至って高杉の機嫌は特に悪く…いつ何をしでかすか分からない―と、桂の愚痴を聞いていた。

 高杉の焦燥の原因はなにも長井だけではない。世界を知った上での富国強兵をし、その上で幕府の失態を糾弾し、帝の下敵国との交戦交渉に備えるべしとする彼の思想…それを『まだ時が早い』として茶を濁しているのは桂や周布といった攘夷派中心人物らなのである。その事も重々承知している桂は、先日高杉が個人的にはつみを訪ねた事を知っていた。彼がはつみの思想や知識に興味を持つのは当然であり、そしてはつみの言葉なら聞き入れてくれるのでは…長井に対し『良からぬ事』をしでかす抑止力になるのではないかと期待して、高杉と話をしてみてはくれないかと相談してきたのだった。

 そして当日の昼過ぎ。図らずも高杉から呼び出しの言伝が旅籠に届いた。思い立ったが吉日とばかりに早速呼び出し先の料亭へと向かうと、『お気に入り』の女と酒をはべらせた高杉が「早かったな」と上から目線で迎える。
 高杉の体調面について『歴史的な観点』からもつい気になってしまうはつみであったが、そんなはつみに対し『開口一番説教か』と鼻を鳴らす高杉。
「しかしまあ、今日は君にとっておきの話がある」
 と言って自ら話題を切り替えた高杉は、女を下げ、二人きりになったところで自信に満ちた表情ながらにこう言う。
「おのし、僕と土佐へ行かんか?」
「僕は長井を斬る。そして亡命しようと考えた。」
 桂が心配していた通りだった様だと言葉を失うはつみ。『その事を桂は知っているのか?』と訪ねた事で、更に高杉の神経を逆撫でてしまう。
「…桂さんじゃと?…いや、僕は君に話をしている。」
 それでも沸き起こりそうになる感情を抑えている様子の高杉に対し、まさか『そんな』琴線に触れているとは思いもしないはつみは『桂が心配している』を土台に長井の航海遠略策などについても気になっている事を高杉に訪ねた。自分達が主張する『開国ありきの富国強兵論』は、長井雅樂の航海遠略策とよく似ている。違うのはそこに幕府を是とする思想『公武合体論』の有無であって、高杉であれば安易に『小攘夷』に走らずとも長井ともっと突き詰めた話ができるのではないか、と。
「今長井さんを殺さなくても、勤王の流れは必ずやってきます。その流れは高杉さんと桂さんが中心になって作っていくものだし、その時高杉さんが長州にいなかったら、乗れる波にも乗れなくなってしまうと思う」
「フン。適当な事を申すな」
「適当じゃないです!桂さんだって同じ事を言ってた!」
「…」
 途中から酒をあおりながらはつみの話を聞いていた高杉であったが、思う所あったのか少し神妙に黙りこくった後、手にしていた杯を乱暴において見せる。
「あいわかった、所詮これは我ら長州人がやらねばならぬ事。松陰先生の敵討ちでもあるしな。僕は君が協力しなくてもやるつもりだ!」
「え?ちょ…」
 言ってる事を180度変えてきた高杉が立ち上がり去ろうとするのを咄嗟に引き留める。彼は横に並んだ自分よりも背の高いはつみをさも気に入らないといった風に睨みつけた。
「おのしは桂さんに言われたから僕を止めにきたんじゃろう?長州人でもないおのしに話を持ちかけた僕が間違っていた!ええい胸糞悪い!」
 『何?どういうこと?』と困惑の表情を浮かべるはつみに、これが『ただの焼き餅焼きの地団駄』だとも思わない高杉は更に畳みかける―。





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