※お試し小説※



「そこまで言うのなら、おんしの資質を試してみるがええ。
 手始めに江戸へ行ってみるもえいがじゃろう。」
「えっ!それじゃあ…!」
愁眉を開いた様にパァッと表情を明るくしたであったが、そのあどけなくも
魔性の様に心を引き付ける笑顔を前に、武市は色んな意味で心配そうに苦笑しつつ
再びコクリと頷いた。
「…思いもせん、大所帯になりそうじゃ。今回の江戸行きは…」
「キャーッ!!!!武市さん、有難うーっ!!!」
「さすがアギじゃあー!!!物事をよう見極めちゅうー!!!」
とたんには武市に飛びつき、それに負けじと龍馬も武市に飛びついていた。
龍馬はともかく、突然に飛びつかれた武市の方は気が気ではない。
白い顔を真っ赤にして、普段の彼からはあまり想像のつかない様な
慌てっぷりでを引き剥がし、龍馬を押しのけて自分のテリトリーを守る。
「殿っ…!言うておくが、女の道を外し修羅の道を行こうち言うても
 節操は守らねばならん…!!!いっ、意味を履き違えるなちや…!」
後ずさり腰が抜けた様な体制でそんな事を言う武市は、先程の高貴な態度とは
まるで違うところからして、本当に女性と接することに慣れていない様だ。
何度も思ってしまうが…本当に、歳も近くて親友同士という龍馬とは
まったく両極端の人だ……。またそんな両極端の二人がとても仲良しなのも、
非常に興味があり微笑ましいことだった。
「はっはっは!武市さんはまっことカタイきにー!ほれほれー!」
「あーっ!や、やめんか龍馬っ!!!」
プロレスでもしているかの様に、大きな男同士がゴロゴロと部屋中を
転がりまわっている。どうやら武市の方が必死に逃げている様であったが…。
「あはは!きゃあ!待て待てーっ!!!」
更には龍馬と一緒になって武市を追いまわす。
しまいには龍馬と肩を並べて、改めて武市の説教を食らうハメになってしまった…

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