仮SS:ミスター・ジャーナリスト


敷地で何やら問答する声が聞こえ、勝が出向くとなんと外国人2人が幕府の護衛5人と共にやってきていた。

護衛の者達の中に英語がわかる者はおらず、勝はまずカタコトの英語で挨拶をした後、すぐにはつみを呼ぶ。長崎での語学留学以来独学ながらも研鑽を積んできたはつみの英語はしっかりと相手方に通じた様だった。

彼はイギリスのカメラマン・フェリーチェ・ベアトと言い、もう一人の外国人はその従者だった。日本初の海軍が創設されると聞いて、その素晴らしい瞬間をカメラに収めたい一心でここに来たと言う。

当然ながらここは外国人の安全が保障された地域ではない。外国人の中でも遊歩地域を越えて旅行に出かける者は『よほどの猛者かどうかしている』と言われる程危険なのが現状なのであったが、これまで日本国外でも数多くの戦場を撮影してきた彼にとっては些細な事の様だった。陸奥と勝がそれぞれに感想を口にする。

「確かに、未開国が初めて対外勢力を意識した海軍を作るってなりゃあなぁ」

「まぁだなんも出来上がっちゃいねぇ。イギリスの海軍とは天地の差だぜぇ」

随行していた警備5人らによれば、横濱の奉行から彼の旅行に関する書簡を預かっているとの事。確かに彼は正式な許可を得て保有区域を越え、関所を越えてきた。しかし奉行所としては外国人がこの様に気軽に外を旅行する事は安全の面からも好ましくなく、帰り道は横濱への船便を勝に便宜してほしいとの事だった。

彼らが話をしている事も訳してくれとベアトに言われ、はつみは全ての会話をベアトに訳してやる。

「かっかっか!まぁ立ち話もなんだ、一旦中に入ってもらおう。工事中の掘立小屋だがな?」

はつみが訳すと、ベアトは笑顔で「アリガトウ」と言い、勝も「ユアウェルカム」と答えた。



移動する最中、ベアトはずっと気になっていた様子ではつみに話しかける。

『失礼。君はもしかして、横濱でイギリス人の画家に会った事が無かったかい?』

『はい!たしか2年ほど前に…スケッチをしてもらいました』

『やっぱりそうか!!!』

突然ベアトが歓喜の声をあげたので皆が立ち止まると同時に振り返った。彼は構わず両手を叩いて喜んでいる。実はこの日本初の海軍に英語を話せる日本人女性がいると聞き、是非取材したいと考えていたそうだ。

『彼の事は覚えているかい?』

『は、はい!チャールズ・ワーグマンさんですよね。』

『ワオ!』

『あと、通訳のアレクサンダーさんにもお世話になりました。彼とは長崎でも会った事があります。』

『そうさ!ああ間違いない、君が「抑圧されたミューズ」だね?』

『ええ?』

「おいおいおいどーしたって?やけに嬉しそうだが…」

勝が面白半分懸念半分といった様子で割り込んでくる。ベアトは一生懸命英語で勝に説明し、はつみがそれを訳すと同時に、自分でも驚きながら勝への伝言を続けた。ベアトは、ワーグマンが発行した『ジャパン・パンチ』という風刺漫画冊子が人気を集めており、それに出てくる『抑圧されたミューズ』という人気キャラクターのモデルがはつみである事を伝え、これまで発刊されたジャパン・パンチ3部を慌ただしく取り出し、手渡して来たのだった。






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