仮SS:嵐の前の静けさ


 昨年末、武市はついに『留守居組』への昇進通達を受け、名実ともに『上士』となった。これは藩主による引き立てのみならず、背後にて真の実権を握る容堂にも認められたという事だと殆どの者が信じて疑わずにおり、勤王党同志達による京・公卿衆への周旋活動は更に強硬的なものへとなっていく。薩摩へ一時帰藩していた田中新兵衛も、揺るがぬ尊王攘夷の思想を抱いたまま再び武市の元へ現れていた。

 そして1月1日。この日武市は平井らと共にささやかながらも酒肴をつまみ、和歌を詠んだりと久方振りにゆるりと羽を伸ばす穏やかな正月を過ごしていた。


 一方、この席にははつみの姿がなかった。武市達勅使一行とは別働だったとはいえ12月末には京に帰還したはずだったが、その後この寓居に戻る事はなかったのだ。はつみの事は禁句かとでも言わんばかりの空気の中、怖いもの知らずの新兵衛はしれっとした様子で武市に訪ねる。歯切れの悪い返答があった後で姉ヶ小路公知による訪問があり、勝海舟の話題となった事で空気が変わる。

 姉ヶ小路が去った後、しばらくして再び新兵衛が武市に働きかけ、今度は『初詣』へと誘った。それは、はつみが寄宿している『白蓮』への初詣であった。






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