―表紙― 登場人物 物語 絵画

活人剣





※仮SSとなります。 プロット書き出しの延長であり、気持ちが入りすぎて長くなりすぎてしまった覚書きの様なもの。
途中または最後の書き込みにムラがあって不自然だったり、後に修正される可能性もあります。ご了承ください。



4月。吉田東洋の新居が完成し祝事などで警戒が緩む中、土佐勤王党の一味が吉田東洋の周囲に密着していた。そんな折、買い物からの帰り道にあったはつみは通り雨に見舞われてしまい、以蔵と共に適当な木の下で雨宿りをしていた。…そこへ突然、バシャバシャとこちらへ駆け寄る足音が響き渡り―…

 何者かの襲撃を受け、ぶらぶらと手に持っていた木刀で咄嗟に対応する以蔵。相手は深く笠を被っており、明らかにはつみを狙った挙動であった。しかし相手は組み手となった所へあっけなく腹に一撃を食らい、はじき返されあまつさえ手にしていた大を放り出してしまう。雨の中、豊富な髪を濡らして亡霊の様に資格を見下ろす以蔵は無造作に木刀を捨て、腰の刀に手をかけた。
「―以蔵くんっ!!!」
 咄嗟に駆けだしたはつみが以蔵の背中に抱き着く。はつみの重さを感じた瞬間に以蔵の殺気は霧散し、刺客もそれを察知したのか慌ただしくじたばたした動きで走り去っていったが、以蔵の目にはしかと、泥に汚れた白い足袋が移り込む。…相手は上士だ。
「…今逃がしたらまた狙われる」
「…ごめんね…斬られなきゃ斬られちゃうって、以蔵くんは言ってたのに…その怖さが今やっと分かったのに……」
「……」
 通り雨は周囲の気配を紛らわせる為以蔵はまだ気を抜いてはいなかったが、はつみとの距離が不意に近くなりすぎて妙な感覚に陥ってしまった。
「守ってくれて、ありがとう…」
 雨に打たれる寒さではない震え。それでも自分の腕をしっかりと掴み、額を押し当ててくる彼女の顔を近距離に覗き込む。雨の粒とは違う暖かなしずくが、震えながら閉じる目元から溢れていた。…しばし言葉を失い、やけに早く大きく打ち付けてくる鼓動を落ち着かせる様に視線を落とした以蔵であったが
「…これが、活人剣、じゃろう?」
 と、思い立った事を不意に口にしてみせた。
 いつか江戸で内蔵太と組合をしていたはつみが言っていた言葉だ。相手を斬る為の剣で一体何を活人とするのかと不思議に思っていたが、はつみが金魚を育て、命を守ろうとする事…心に剣を持つ事…なんとなく『そういう事』なのだと……自分に寄り添って涙する彼女を見て、初めて腑に落ちていた。
「うん…うん!そうだよ!」
 晴れやかな笑顔で眼を見開いたはつみが目元を拭いながら大きく頷く。以蔵の身間違えか何かの映り込みか、その瞳は綺麗な翡翠色に輝いて見える。思わず惹き込まれて周囲の警戒も忘れ、刀にかけていた手をはつみの細腰へと回しそうになった…その時。
「ケーン…!」
 ハヤブサの声が聞こえ二人して周囲を見ると、上空を旋回するルシの姿があった。スッと急降下し、急接近していたはつみと以蔵の間を際どく通り抜けていく。その際に小さな薬袋の様なものを落としていった。…気付けば雨も上がりかけ、雲の隙間から差し込む光を浴びながらルシは再び上空を旋回している。以蔵から離れたはつみはルシが落とした小袋を広い、目線の先まであげてそれを確認した。
「綺麗な袋…でも中身は空っぽみたい」
「…犯人の手がかりじゃろう。随分頭のええ鳥じゃな。」
 逃げ出しす犯人の白い足袋を見て上士だと見抜いていた以蔵であったが、その上更にこの様に良い布を使った小袋を贅沢に持ち歩くなど、尚更上士にしかできない事である。…はつみも犯人は上士なのだろうと気付き、視線の合った以蔵と頷き合っていた。

 はつみを坂本家へ送り届けた以蔵はずぶ濡れのまま武市の下へと向かう。報を聞いた武市が以蔵と共に坂本家へ駆け付け、はつみの無事を確認して思わず安堵の表情を見せた。武市に続いて権平らも大いに以蔵に感謝し、以蔵を付けてくれていた武市にも合わせて感謝の意を述べ、その武市は謙遜ではなくすべては以蔵の健闘であるとして、人目もはばからず『よくぞ守った』と最大限に褒める。
…この様に、人々の笑顔や感謝の言葉が全て自分に向けられ、そして何より、今も微笑むはつみを見て『達成感』の様なものを得られたのは…生まれて初めての事だった。

 はつみを襲撃した犯人については、後日になって武市にはなんとなく目星がつく事態となる。しかしその者は『一藩勤王』を目指す土佐藩政に必要となる男であり、また東洋暗殺の犯人ではないかとの噂も流れてしまっていた為、彼がこれ以上目立つ事を抑える為にもはつみへの行動については『不問』とせざるを得ない…『目を瞑る』という、不義と紙一重の対応を取るものとなる。
 しかしそれはまた先の話であった。





※ブラウザでお戻りください