仮SS:歴史の力


 1月上旬に容堂が入京し、入れ替わる様にして武市が一時帰藩の為土佐へ発ってしばらくが経っていた。その最中、江戸ではつみと『上士』である乾との間で何があったかを察していた以蔵が、情事を以てはつみに想いを吐露し、そのまま姿を消した。その直後、山内容堂の来訪者であった池内大学を殺害した犯人が以蔵であるとの噂がはつみの耳にも届く。

 出奔の事は兎も角、池内大学殺害の犯人は『以蔵ではない』。これは明確な濡れ衣であり、そして図らずも歴史とは違う展開を見せていた。はつみの知る歴史では、確かに池内大学暗殺には岡田以蔵が関わっているとする傾向が強かった為である。

 自分がどれだけ強く意識をし、先を見据えたつもりで行動しても武市の思想や行動は変わらない。

 しかし以蔵の行動は大きな変貌を見せていた。これまで彼は一度も人を斬らず、『密事』に加わってもいない。その事が結果的に別の形で『不満』や『疎外感』を産み出していたが、武市との関係性も昔から続く『第一の師弟』そのものを保っている。…故に、周囲の者達からの妙な偏見や僻みも相まって、今の『罪の擦り付け』といった現象が起こっているのもある。しかし史実とは違う展開を見せながらも、以蔵が失踪する時期や以蔵を犯罪者へと駆り立てるこの流れは、結果的には史実と同じ方向性へ向かおうとしている様にも思える。

 …果たしてこれは歴史が修正しようとする力なのか。

 寅之進の時とは違って桜清丸が熱を放つなどの変化を見せる事はなく、ルシも変わった反応を見せる事はない。当然、ルシファが出てくる事もない。何故こうなったのか。どうやったら武市の運命もこの様に導く事ができたのか…塞ぎ込むはつみを寅之進が心配するが、胸中に渦巻く不安や懸念を打ち明ける事は誰にもできなかった。






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