―表紙― 登場人物 物語 絵画

唇に金平糖





※仮SSとなります。 プロット書き出しの延長であり、気持ちが入りすぎて長くなりすぎてしまった覚書きの様なもの。
途中または最後の書き込みにムラがあって不自然だったり、後に修正される可能性もあります。ご了承ください。



 8月。武市の看病中のはつみと『偶然』再会するが、実は長州藩邸にて土佐上洛とはつみの存在についての報を得た為に、土佐藩邸の周辺で偶然を装って様子を伺っていた所へ買い出しに出ていたはつみと寅之進、以蔵が帰ってきたという流れであった。

 近くの食事所へ移動し、改めて二人でゆっくり話す席を設ける。
「護衛が2人もついたか。随分と出世したな」
 が、それが返って『危険な状況』に差し迫っているという事も察する高杉。それはそうと、と上海や長崎を見て真に開けた『世界観』を共有し合い、二人の思想と理想を語り合い、素直なはつみの反応が胸に迫る。また、長崎に帰還した際に英国の瓦版である『じゃぱんぱんち』というものを手にしたと話す。英国人から見た日本の解せぬ習慣や文化の違いを痛快に皮肉った絵がわかりやすく、中々面白かったと。そしてその中に『抑圧された女神』という登場人物がいた事を伝える。
「これがおのしにそっくりじゃと思うてな…」
 本誌を見せながら言った矢先、はつみは著者欄に記されているCharles Wirgmanの名に反応した。
「あ、この人横濱であった事があります!その時スケッチさせてくれって…あ、似顔絵を描かせて欲しいって言われたんですよ。その時は確かに英語で会話して、ついでに色んな英単語や文法についても教えてもらって…丁度、高杉さんに差し上げた単語帳みたいなのをずっと書き記してたんです。」
「なるほど合点がいったな。やはりこれは君が模範となっているんだろう。」
「そ、そうかなぁ?」
 近況報告もほどほどに、高杉は再び世子の下へ戻る為に江戸へ行く事になっており、互いに長い時間は割けずであった。別れ際にはつみが土佐の危険な様子について忠告してきた事で、自分は兎も角はつみの安全が不安になる。
「…長州へ来るか?あの二人もまとめて、僕が引き受けてやらんでもないぞ」
 機嫌の良さから大口をはたく様になっていたとはいえ、下心もなく出てきた言葉に我ながら驚くと共に、はつみの反応を見やる。一瞬嬉しそうな色が込み上げていたのが手に取るようにわかったが、すぐに堪えるようにして頭を振りつけ、理性を保とうとしている様子が見られた。
「…高杉さんにそんな風に言ってもらえるの、すっごく嬉しいんですけど…。ここでやらなくちゃいけない事があるから…」
 彼女が思想を語る時の、『俯瞰的な視野の広さ』を感じない。その事で、彼女のやろうとしている事は長州(くに)の桂や久坂などが懸命に頭を使い走り回っている『時世へに対する工作』でない事はなんとなく伝わった。辛い恋でもしているかの様な女の表情に、先ほどまでの楽しい世間話で軽々としていた胸が締め付けられる。…その相手は自分ではなさそうだとも思ったが…今は気分が良いのか特に苛立ちを感じる事もなかった。はつみからすれば、去年江戸にいた時には会話中急に機嫌を損ねられて『君とは相性が悪い様だな!』とまで言われた事が遠い昔の話の様だ。
「左様か。何か義があればいつでも連絡してくれ。…おお、忘れておった。ほれ、土産じゃ」
 そう言って話もそこそこに、席を立ちつつ袖袋内から小さな袋を取り出すとそのままポイと放り出す。慌てて受け取ったはつみは、掌にすっぽりと収まったそれを見るなり『わぁ』と表情に花を咲かせた。こうした小手先の事でも彼女の表情を変えさせることができ、高杉の承認欲求は更に満たさんばかりだ。彼女が小袋に目を輝かせる間に、もう一つの小箱を続けて差し出す。
「かわいい!えっ、お洒落な金平糖がはいってる!こっちも素敵な箱…えっ!?もしかしてこのお菓子は…?!」
 異国の生地だろうか、細やかな花柄の刺繍が施された巾着袋にこれまた異国情緒ある模様が刻印された油紙で包まれた白と茶色の金平糖が入っていた。一見味気ない色組み合わせとも言えなくもないが、『現代の感覚』が残っているはつみには却って『お洒落』に見えた事はリップサービスでもなんでもない。そして後から差し出された高級そうな洋風の小箱へ視線をやると、はつみにとってかつて愛してやまなかった洋菓子『チョコレート』が、まるでクローズアップされたかの様に大きく視界に映り込む。
「上海で見つけたものでな。君が好きだろうと思うて購入してきた。…まだ腐ってはおらんじゃろうが溶けておるかもしれん。」
「わああ…凄い、嬉しい~!どちらも食べたいなってずっと思ってたんです。それにこの入れ物も、二つともとっっても可愛い!お菓子を食べ終わった後にもきっと何かに使えますよね!嬉しい~!」
「おいおい、今日いち饒舌じゃな。ははは」
 そう、砂糖をふんだんに使う金平糖は国産流通しているものの一般向けとは言い難い菓子であり、内蔵太にあげてしまって以来土佐では購入できずにいたし、チョコレートは長崎で探した事もあったがその時はも見つける事ができなかった。決してモノに釣られる訳ではなかったが、どんぴしゃりなサプライズプレゼントはやはり嬉しいし好感度も増す。高杉が機嫌よく笑ってくれているのも、はつみにとっては珍しくもあり尚の事嬉しかった。
 『僕も甘いものは嫌いじゃないからな』と言いながら手を伸ばした高杉が、小袋の中から一粒の金平糖を取り出す。『あ、食べたくなったのかな?』と取りやすい様に差し出すが、彼が摘まみだした金平糖はそのままはつみの口元へと寄せられていった。
「んっ?」
 親指で押し込まれる様にして口内に入ってきた金平糖の甘さよりも、突然の『彼氏なう』な現象に目を白黒させるはつみ。上機嫌そうな高杉は鼻で『フン』と笑い、柔らかで血色の良い可愛らしい唇についた砂糖のかけらを、そっと拭う様に指を滑らせる。
「フン。別れのつもりが長引いてしもうた。僕はもう行く。…先ほども言うたが、何か困った事があれば、いつでも江戸に来たまえよ。」
「あっ、はい!あああの…有難う御座いました!アッ!道中お気をつけて!」
 突然の事であったし、高杉もその直後で何事も無かったかの様に颯爽と去ろうとするので、慌ただしく見送りをするはつみ。あと腐れなく「見送りは結構。ではまた」と去った高杉であったが、彼女と別れて道を歩く間も柄にもなく緊張感のない顔をしている事に気付き、一人咳払いをして何事も無かったかの様に表情を戻すのだった。





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