仮SS:年上の女


 入院中の伊達小次郎がその女に興味を持ったのは、話をしている声がなんとなくはつみのそれに似ていたからだと自覚していた。

 少し年上というのもはつみと同じであったし、なんとなしに話をし始める前から気になっていたのは確かだ。色町にも出入りする香川からすれば、伊達は綺麗な顔をした初心な青年であり、可愛らしかった。身の上の話を聞けば15で江戸に出てから18になるこの年までかなりの苦労をしている書生であり、あたまでっかちはご愛敬で女も知らなさそうなところが尚更、心をくすぐられたとでも言うべきか。
 入院の合間に毎日顔を合わせ、少しずつ話をする内に、香川がその手に極めた芸事の一端を見せてくれる様になる。色町を知らない伊達は目の前で自分の為だけに見せてくれるちょっとした踊りや歌、仕草が魅力的に見え、引き込まれていった。遊女や芸妓、女遊びに興味があるという年頃であるという理由も勿論あるだろう。だが何より、声が…彼女の面影を色濃く呼び起こすその声が、まるで媚薬の様に彼の脳に作用していたのは間違いなかった。  香川も伊達の事を気に入ってくれた様で、ある日、布団に座って自分の歌踊りを見つめる伊達の膝にそっと座り込み、『可愛いらしい』と言って頬を撫でた。流石に焦って身をよじる彼の若い手を握って小袖の下へと導き、そんな熟達した仕草でその気にさせてきたのだ。 『こういう事に興味はあるのかい?』
『そう。じゃあ、女を抱いた事は…?』
 その声が、色濃い経験を共にし、新しい視野を以て勤勉に取り組んだあの秋冬を思い出させる。  ―彼女を思い出させる…。  それにもう18なのだ。女の一人や二人、もう知っておくべきではないか?  そんな風に、色んな意味での興味、欲求が刺激されてしまった。  始めは身を委ねるだけだったが、自身の下半身で好きなように弄ばれる熱の中心部は過去に経験のない程剛直なそれへと変貌していった。女の手技が卓越していたのか、それとも淫猥な事を艶めかしく囁くその声が必要以上に脳を昂らせていたのかは分からない。だがこれまで得て来た全ての経験とも違う、何もかもを解き放つかの様な熱の放流に口内から涎がこぼれ落ちてしまう程我を忘れ、全身の筋肉が硬直しながらも快楽に打ち震え、信じられないほどの汗を吹きだすという体験をしてしまった。  果てた後には感情からくる涙ではなく体の生理的な反応として溢れた涙が、男ながらに美しい切れ長の目尻から一筋流れ、圧倒的な快楽の耳元で優しくあやす様に囁くはつみの声がまだ敏感な脳内を掻きまわす。女は伊達の手を優しくとり、それをそっと、しかし躊躇う事もなく自分の下腹部へと滑らせた。ハッと息をのんで「お、おい…」と焦る伊達に微笑みかけながら、溢れ出る蜜でたぷんと濡れそぼる蜜壺の入口へと、その指を軽く沈ませてみせる。 『ここにも興味があるだろう?あん…』  伊達の指に自らの指を添え、割れ目に溢れる蜜と粘膜の感触を楽しませる様にして上下に滑らせる。伊達は興奮と困惑を交えた様な表情のまま呼吸を早くし、いつものおしゃべりな口をまた半開きにして、されるがままだ。 『でも、これは…また こ ん ど 。 フフフ』  そう言ってゆっくりと手を引き下げ、伊達の指先にまとわりついた蜜がたらり糸を引いてたわみきった所でぷつりと途切れ切れた。その反動で戻ってきた液体の小さな感触が、見えない所で滴っているであろう愛蜜を想像させながら艶めかしく皮膚に伝わる。香川はそのままクスクスと笑いながら口元へ指を引き寄せるとぬらりと舌を絡め、伊達の指と自身の指の隔てなく舐め回した。その舌が艶めかしく動き体液がなめとられてゆく様を、まるでギリギリの理性を保たんとするかの様に眉間にしわを寄せ鼻息荒くしながら一点集中して見つめる伊達に、女は心底楽しそうに、またその声を漏らす。 『かぁいらしいねぇ』  性的興奮に極限の所でふるふると震えながら理性を保とうとしていた伊達の脳が、その声で再び視界に達する。香川の肩を掴むと布団の上へと押し倒していたが、その目には、脳内には、もはや桜川はつみが裸体となってこちらを見ている幻想しか見えていなかった。 「……あんまおちょくんな……」 『おや…』  やられっぱなしの年下美男子も可愛らしかったが、突然の漢味を出して来た伊達に思わず女の顔になってしまう香川。伊達の興奮の仕方が尋常でないのは彼が初体験であるからだろうと思っていたが、その長身で上から覆いかぶさり、知性溢れる端正な切れ長流し目に興奮を漲らせたその顔をずいと近づけて来たかと思うと首筋へと顔をうずめ、貪る様に肌を舐め始めた。その動きは、経験豊富な香川を『筆おろしを優しく手伝う姐さん』ではなく『女』へと変貌させるに十分だった。

※仮SS