仮SS:I came to Japan


 まずは晴れやかな天候と海の青さに感動し、長年の親交を結ぶ事となるチャールズやウィリスらに出迎えられ、現在賜暇中のラザフォード・オールコック公使の代理公使ジョン・ニールから正式に在日英国領事館付き通訳官候補生(通訳生)としての任務を拝命した。ニール代理公使の脇には既に通訳官としてキャリアを積んでいるアレクサンダー・シーボルトという名の青年がおり、彼とも同僚として挨拶を交わす。

 代理公使からの辞令通達を終えたサトウは、「周辺を案内するよ」と声をかけてくれた気さくなチャールズと散策する事にする。上海公使館に滞在中、サトウは日本からの定期便から『ジャパン・パンチ』という画家チャールズ・ワーグマンによる風刺漫画を手に入れていた。ここに出てくる『抑圧されたミューズ』、そしてそのモデルになったとあとがきにある『ハテュミ』という存在について早速彼にインタビューをする。
 実際の彼女と横浜で出会った時の事やその時の様子などを聞き、このあらゆる美しいものも恐ろしいものも沢山その目に見てきたであろう画家ジャーナリストを唸らせた未開の国の女性が実在するのだと思うと、内心胸躍るのを必死に理性を振り絞って平静な振りをするサトウであった。

 おとぎ話の様に小さく木と紙で作られた日本人の家に住まい、まずは公使館の仕事を手伝う所から始まる…はずだったのだが、サトウが来日してものの5日後に薩摩のダイミョーギョーレツによる民間人殺傷事件・生麦事件が発生する。

 外国人を総じて『蛮人』と言い、政府の方針としては決して友好的ではない日本。眼前の外国人に対しては丁寧な対応を見せながらも信用ならない幕府とその役人達。その幕府と『ミカド』という権力者が座する朝廷との複雑な関係。市井にあっては外国人は全て打ち払うべしと『ソンノージョーイ』を叫び、外国人を見るや恐ろしく研ぎ澄まされた日本の剣『刀』で切りかかり暗殺を企ててくる二本差しの男達が跋扈する。
 この日本がその頑なな扉を世界に開き、世界の一部として共に歩む様に導く、あるいは見守っていく為には、まずはこの国の文化を知り人々とコミュニケーションを図り、彼らの言葉や真意を極めて正しく公使に伝える必要がある事を、通訳官たる自分の使命と心得る。そのためには右も左も言葉すらも分からない土地で理不尽な命の危険に晒され、時に商品価格を吊り上げられたりなど些細な被害に会う事は常としながらも、通訳生としての語学勉強時間の確保、教師や教材の確保、信用できる日本人との出会い、文化や仕来り、作法等への理解など…やるべき事、学ぶべき事が文字通り山積みだ。

 しかしそれでも、日本の事を綴られた本を初めて手にした時からずっと憧れていたこの国に対して沸き起こる知的好奇心を、素直に禁じ得ないのであった。




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