仮SS:大阪乱闘


露天神社を参拝し、大阪の土地勘を得る為まったり散策をしていたはつみ達。
次は船での移動となる為はつみが楽しそうにしている中、御堂筋と新御堂筋が分岐する付近にかかる『蜆橋』で人だかりができている事に気付く。遠巻きに人垣から覗き込んでみると、なんと沖田ら試衛館面々の姿が見えたので驚愕する。彼らは橋の上で力士らしき者達と殴り合いの乱闘を行っていた。はつみは『壬生浪士組が結成されて初期の頃、大阪で力士と乱闘をした』という事件についての記憶があったが、仔細についてはうろ覚えであった為、今目にしている現場がその乱闘事件であると勘違いしてしまう。


力士たちが逃げ去り乱闘が『終わった』であろう中、浪士組の一人と思われる眼帯の男性が『見世物じゃねぇぞ!散れ!』などと声を荒げて周囲の野次馬を追い払おうとしていた。沖田始め一行はピンピンしている様であったが、斎藤らしき青年が大きな男性に担ぎ上げられ、そのまま運ばれていくのを目撃してしまう。怪我でもしたのだろうか…。「あいつらに関わるのはよそうぜ」と陸奥は言う。彼は何かやらかした事はなかったが浪士組の捕縛対象である『不逞浪士』と交流を持つ面もある。一応紀州出身のテイで『途中手形』なども得てはいるが、正確には紀州脱藩の浪士である。陸奥の進言を受け入れたはつみ達は、沖田達に声を掛ける事なく堂島川へと向かって南下をはじめた。浪士組の大男に担がれていた青年・斎藤一は、腹痛で歪む視界にはつみの横顔を捉えていた。自分達とは違う方向へ去っていくのを見て『そっちへ行くなら大丈夫だろう』と人知れず安堵する。斎藤の直感では、力士たちが2度も自分達に絡んできた事と逃げ帰った先で仲間に言いふらさない訳がない事、つまり報復があるかもしれない事を懸念していたのだった。


夕刻になり、はつみ達は陸奥が知る曽根崎の茶屋へ向かう事にした。先ほどの露天神社に近く宿舎へ返る途中の土地であったし、食べた後にまた船で大川へ出るのも楽だという事から採用となった。

目的の茶屋に到着し主人に二階の部屋を一部屋取ってもらう。足を延ばして無防備にくつろいでいると、突如すぐ側の店から大音量の衝撃音と罵声が放たれた。何事かと窓から身を乗り出すと、なんと隣の住吉楼(茶屋)の二階で大乱闘が始まっているではないか。眼下や周辺にも轟音を聞きつけた野次馬が既に集まり始めていた。3人が首を伸ばして隣の様子を見ていると、窓際に一人の青年らしき人物が吹き飛んできたのが見えた。頭を殴られたのか左頭部を抑えながら直ぐに起き上がったのだが、彼が一瞬外の様子を確認した時に顔が見え、沖田である事に気付いてしまう。
「総司くん!?」 「えっ…」 急に声を掛けられまさかと視線を合わせるのも束の間、後ろからやってきた大きな影に翻弄される様子の沖田。身を乗り出して落ちそうになるのを必死に受け止める陸奥と、「俺が行きます!」と咄嗟に駆け出していく寅之進。次の瞬間突き飛ばしを食らったのか再び沖田が窓際に吹き飛んできた。窓の柵が壊れ沖田の上半身が大きく外へつんのめる。辛うじて窓枠に手をかけぶら下がる形となったが、咄嗟の掴みでは甘かったのかそのまま庭先へ落下してしまった。

※仮SS