所属・拠点:薩摩藩
天保6年12月14日生(約6才年上)
身長:165cm、中肉、やや病弱
性格:英明闊達、雄弁明快、魅力的、
紳士、天然
一人称:おい、私
二人称:おはん、君
出会い:万延元年・長崎遊学編
物語:「姫沙羅」
Image Colors:白菫色
薩摩5500石取喜入領主・肝付家の四男として生まれる。跡目重視の家風にあって両親や乳母らの充分な愛情には恵まれずに育ったが、本人は至って穏やかで爽やか、そして落ち着いた品のある少年へと成長した。極めて裕福な肝付家には何でも揃っていたが、庭に植えられた姫沙羅の花が夏の濃い青空に映えて真っ白に咲き誇り、花が落ちた後も空の青を写し込んだ池に浮かぶ様子を眺める時間が彼の癒しであり、お気に入りの景色だった。
生まれながらに体が丈夫ではなく剣もそこそこではあったが、少年期から学問の才が開花する。しかし齢17の頃、世間では浦賀にペリーの艦隊が現れ騒ぎとなっていたが、彼本人はというと周囲が心配するほど琵琶に打ち込んでいた。既に名手と言える程までに上達していたが、家令が恐れながらも『将来藩主様に仕えるお方がその様に学問をおろそかにしていてはならない』と建言してきたその勇気と、四男の部屋住みに過ぎない自分の将来をこれほどまでに期待してくれていた事に深く心を撃たれ、己の士分は主の為にありその為に自分ができる事は学問を深める事なのだと建言を受け入れ、泣きながら琵琶を納戸に放り込む。そして2度と琵琶に手をかける事はなかった。
以後、学問や剣に加え、馬術にも積極的に取り組んだが、特に乗馬の技巧は右に出る者はいないとされる程上達したという。
21歳の時に奥小姓として斉彬公に仕え、間もなくしてその命により小松家の娘・千賀と婚姻して『小松家当主・吉利領主』となる。こうした急遽の婚姻であっても妻・千賀とは恙なく仲良くなり、湯治旅行へ新妻のお千賀を連れて行くなど、世においては珍しくも小松らしい柔軟で愛情深い夫婦生活が始まっていた。引き続き斉彬公からも一目置かれ、領民からは名君として喜ばれ、家臣に対しても寛大で一致団結慕われる当主であった。だが幾年の月日が流れてても彼の子供が誕生する事はなかった。
27歳の時に藩主周辺にて政権交代が起き、その煽りを受けた小松も弁天波止場係へと左遷される。そしてこの波止場には、少し前まで長崎遊学に出ていたという砲撃と狙撃の手練れ・村田経臣という若者も配属されており、小松はこの村田を通して長崎における異国の学問、軍備、文化といったものを更に深く知っていく。特に気になったのは、長崎遊学時の村田に対し『これからは英国語や国際司法について学ぶ方がいい』と助言をし、更にはかのシーボルト医師やその子息らとの知己を得るきっかけになったという『男装の女性』についてだ。しかしいかな理由であれ妻のいる身で他の女に期待する訳にはいかないと、その時は頭を振るって忘れる事にした。
時同じくして、藩が長崎から買い付けた一隻の蒸気船が弁天波止場の沖に碇泊される運びとなり、近くこれを藩主が見学するからという事で小松が案内役を申し付けられる。真新しい異国の船と技術を完璧に披露した小松に感心した藩主から『更に精進せよ』との意向とその裏に秘められた『派閥争いからの隔離』という意図もあり、文久元年1月、小松は村田経臣を共に加え長崎遊学へと向かう事となる。これは全て藩主の父である島津三郎(久光)が、亡き兄であり前藩主である斉彬公が特に目をかけていた小松を派閥争いから遠ざけ、然るべき時に然るべき知識を身に着けた状態で再登用する為の布石でもあったが、小松本人はまだ『弁天波止場に左遷された』状態である事もあって、久光公がそこまで自分を取り立てようとしてくれているとは考えていなかった。だが、藩主から与えられた使命はどんな状況にあっても全うするつもりで、未知なる学問を収める為に長崎に向け出発する。
…そこで図らずも、例の『男装の女性』なる人物と出会う事となった。
小松から見て、彼女は全てが特別な女性だった。薩摩では厳格な家父長制のもと、「男は外、女は内」といった風潮が極めて強い。彼女の様に一般の女性が目立つ事は勿論、「外」に影響のある言動をする事自体が厳禁とされている。とりわけ、小松は自分の妻に対し共に温泉旅行を楽しむなどそこまで厳格さを求めない珍しい武士であったが、だからこそ、長崎にまで新たな学問へと視野を広げにきた小松には彼女の姿が『非常識』なのではなく『新しい世界そのもの』として眩しく映ったのだ。畏れ多くも、その『未知の世界をも畏れぬ先見の明』には、彼が敬愛して已まない前藩主・斉彬公の面影も重なって見えた。
そして何といっても、彼女は自然体であり、素直で愛らしい人柄であった事が率直に小松の心を掴んでしまった。健康的で晴れやかな笑顔と白く鮮やかな白袴の眩しさが、庭に咲き誇り小松の心を癒し続けていた真夏の姫沙羅に重なる。
つぼみが芽吹く前から、雄大な青空の下、青々と茂る青葉に映えて白く美しく堂々と咲き誇る時を楽しみに、愛で続ける。彼女もまた、世界という雄大な舞台に咲き誇らんとする日本桜であり、小松にとっての姫沙羅であった…。