所属・拠点:江戸・試衛館、新選組
天保15年夏生(約3才年下)
身長:168cm、筋肉質、やや病弱
性格:剣士、好青年、一途、好敵手、成長
一人称:私
二人称:貴女
出会い:文久元年・江戸遊学編
物語:「初恋」
Image Colors:浅葱色
江戸詰め白河藩士の家に生まれるが、物心つく前に両親と死別。家督を相続する事ができず、齢9歳にして試衛館の内弟子となる。試衛館では優れた人格者でもある近藤を始め、多様で個性的な門人や食客達とおおいに触れあい、好奇心旺盛で物怖じしない、性根の真っすぐな少年へと育った。
江戸試衛館にあっては時にやんちゃ、時に喧嘩と『嗜んで』はいたが、姉の教育により将軍のお膝元にて生粋の武士家系に生まれたとする風格はしっかりと備わっている。一方で子供や猫、無垢なものが好きという穏やかな一面も持ち合わせており、且つ物怖じしない性格というのもあってどこか飄々とした掴み処の無い奴だとも言われていた。また剣の才においては早くから開花し、齢10歳にて大人の指南役を撃破した事もある程だった。
老若男女意識せず必要な時に必要な人へ気さくに話しかける為、彼に熱をあげる女性も少なくは無かったが、沖田本人はそういった視線は全て土方歳三という兄貴分に注がれているのだと勘違いをしている。食客達からも『良からぬ知識』をアレコレと吹き込まれるが『私には剣しかないですから』と、しれっとしていた。
そんな彼に『春』の変化が訪れたのは文久元年初夏の事。6月15日、天下祭の一つとされる『日枝神社大祭』を見て回っていた。その帰りに神社の境内で遊ぶ子供たちを眺めていた沖田は、楽し気に階段を駆け上がってきた人物に気が付く。自分と同じ齢と思われる少年であったが、変わった着物を羽織っていたのと腰の大小に加え背中にももう一本大を背負っていた事、そして白いハヤブサと思われる鳥が懐いている様子が目を引いた。彼は周囲を見渡してから沖田に視線を合わせ、会釈をしながら話しかけてくる。
「すみません、この辺りに井戸はありますろうか?」
「ああ、あちらにありますよ」
沖田が指差した方向、木陰に隠れて分かりづらい場所にあった井戸を見つけた少年は爽やかに礼を言い、再度階段の下を覗き込んでいる。しばらくすると階段からもう一つの人影が現れたのだが、髪をひと房に結い上げ男の格好をしていたものの、登り疲れて力ないその仕草で直感的に『男装をした女性』だと察した。『変わった二人だなぁ』と呑気に眺めていた所で、彼女が満面の笑みで顔をあげた…その瞬間。初夏で蒸し暑いはずの周囲が突然満開の桜に包まれたかの様な華やかさに包まれる。
彼女を中心に刻がゆっくりとなり、桜吹雪が舞い…視線が釘付けにされる。手のうちわも落としたまま見とれていた沖田は、子供に袖を引かれている事にも気付けないでいた。
その日以来、沖田の脳裏には常に彼女の笑顔が思い浮かんでは消え、どこのだれかも分からない男装の女性を相手に『せめて夢で逢えたら』等と願う様になっていく。
それから間もなくして、沖田が塾頭を務める試衛館に土佐からの入門希望者があり、試衛館には珍しい江戸での入門者という事もあって沖田の指導にも期待が寄せられていた最中の事。いつもの様に門下生相手に稽古をつけていた沖田は、挨拶と見学にやってきた例の入門希望者の『付き添い人』を見て文字通り『目を奪われて』しまった。
あの神社で出会ったあの男装の女性が、はつらつとした視線で真っすぐに自分を見ていたのだ。
「…えっ…えっ…!?」
「メェーーーーン!」
バァン!!!
「―ぁ痛っ!」
二度見三度見と目を奪われ硬直した沖田は、彼女が見つめる目の前で門人からの面を食らってしまう。門人もまさかこんなにも綺麗に面が入るとは思いもしなかったであろう。逆に『沖田さん!すみません!大丈夫ですか!』と狼狽えている有様だ。
自分には剣だけ。女も恋も、世間の難しい事も二の次三の次だと思っていたのに…あっけなくも初恋に翻弄されてしまった。
土方達が面白がって話している女の裸がどうだの色恋がどうだのという件もまったく興味がなかったのに、その話題に彼女の顔が重なって自分でも制御しがたい程に身体が反応してしまう。そして自分でも知らなかった感情が、どうしようもなく精神を蝕んでいくのだ。女性の身で江戸にまでやってきた彼女は桃源郷か何かに住まう天女の様に明るく美しい容姿を持つだけでなく、俄かには信じられない程の才を持つ奇特な女性であった。そんな彼女の周りには、これまた驚くほど色んな男が出入りをしているという事実を目の当たりにしてしまい…沸き起こる嫉妬や独占欲という感情に、毎晩苦しめられる羽目にもなってしまっていた。
恋がこんなに苦しいものなら、恋なんてしたくなかった…
初心すぎて、部屋で寝込み、両手で顔を覆ったままそんな事まで言い出す沖田に、日頃は割と冷やかし気味の姿勢でいた土方も苦笑を漏らすほどだった。
「じゃああいつに会わなきゃよかったのか?」
「……それは違います…」
「じゃあ忘れるしかねぇだろうよ」
「……それも嫌です」
「じゃあグズグズ言ってねぇで、とっとと押し倒して来い」
「なんでそうなるんですか!もう、土方さんの恋愛談議はてんで参考にならないんですよ!」
そして沖田にとって大きな意味を持つ出会いとなったのは、男装の彼女だけではなかった。試衛館への入門を希望した土佐の青年、池田寅之進。沖田と同じ年であり…彼女に想いを寄せ、彼女の為に『試衛館を選んだ』青年。
あの神社で白い隼と共に出会った寅之進との出会いもまた、沖田に大きな刺激と成長をもたらす存在となっていく。