坂本家、つまり権平には嫡男がおらず、脱藩罪を許された龍馬に親族総出で『権平の養子となり妻を娶れ』と迫っていた。
以前から龍馬が権平と話し合っていたのもこの事である。これに対し龍馬がなかなかウンと言わないそれどころか絶対に無理だとも言い、春猪に子を産ませれば血は繋がる等と言って逃れようとする為、権平ははつみを養子にすると言い出した。龍馬がその婿となりはつみが子を産めば問題のない話だがそれも飲まぬのなら…と言ったところで、龍馬が初めて権平にキレる。
はつみはこれから世界へ向けて雄飛する人材であり、土佐どころか家ひとつに縛られる様な人物ではない、関係のない彼女を巻き込もうとするな。
それにはつみは子が産めない体である事も伝える。
坂本家で知らないのは権平だけだと。権平はハッとする。
だから乙女たちは今回の養子問題にはつみの名を出そうとしないのだ、実際そうだろうと言われ言葉を失う。
伊予が『権平さんは一言多いのですよ』といつも窘めていた。万延元年時に龍馬へはつみとの見合い話を出した時も、だから様子がおかしかったし頑なにはつみの耳に入れない様にと言われた。『坂本家預かりという立場であれば結婚の話に乗り気でなくても断れないだろう』とする配慮が足りない、などと言われておりそれで納得していたが、はつみの体の問題もあったのかと…確かに自分が知っていれば何か口走ってしまった可能性はあると、今になってようやく全てを悟った。
権平は龍馬に詫び、龍馬も怒鳴った無礼と家の家督後継者問題には貢献できない事を詫びた。権平は、龍馬が好きな女子と結婚して子を成せばもはやそれだけでいいと言う。龍馬はため息をつき「権平兄さん、そういう所ぜよ…」と言いつつその気はないと繰り返す。
「わしははつみさん以外の女子は娶らん。じゃが、はつみさんを娶れるとも思っちょらん。」
ならば…と、以前名があがった江戸の千葉道場の娘さんはどうなったと言われ、流石の龍馬も席を立った。
権平は家督問題を龍馬に頼る事はもうやめ、10月の帰国後、早々に春猪の祝言を用意すると決めた。
※仮SS