仮SS:恋をしている


恩義を忘れず救出してもらえた事に感謝し、そして高杉という稀有な御仁に再会できた事を毎日噛みしめるように喜ぶ望東尼。そして、高杉が真冬に挙兵を決意したあの時の会話を今もしっかりと覚えていた。おうのが買い出しに出ている合間を見て、彼に問う。

「今生かぐや姫とは再会できたのですか?」

敢えてそれを聞いたのは、何となく答えを察していたからだった。

恐らく彼はそのかぐや姫との間に一つの区切りをつけ、或いは抱いていた疑問に答えを得て、今は心安らかになっているのだろうと。高杉ははつみと再会した際の事を話し、殆ど誰にも話した事のない偽りのない気持ちを口ずさんでいく。

そこへ高杉宛ての荷物が届いた。長崎グラバー商会からと言われ首を傾げるが、差出人にはつみの名前があった事で高杉は驚きすぐに小包を開いていく。中には朝鮮人参などで作られた高価な漢方薬が入っていたが、まず先に、同封されていた手紙へと目を通し始めた。

…その時の高杉の微笑ましい顔ときたら…。

望東尼は老婆心に微笑ましく見守る一方で、少しだけ『焼き餅』のような心がある事も自覚する。そんな少しだけ複雑さを交えた視線に気付いた高杉は、何食わぬ顔をしながら鼻で笑い、手紙の内容について言及する。

「…噂のかぐや姫からじゃ。この間会った時は随分と暗い顔をしておったが、今では英国の商会で才を振るっておるそうじゃ。見ろ、漢方まで送ってきおって、文でも再三無茶をするなと言うておる。相変わらず世話焼きな事じゃ」

『仕方のない奴だ』とばかりにはははと笑いながらも、喜びがあふれているのは十分に伝わってくる。

「…恋をしておるのですね。その方に。」

微笑みながらも、つい口元からこぼれた言葉に望東尼自身も驚いてしまう。不躾な事を申したと頭を下げようとしたが、高杉は何ら不快な様子を見せる事なく寧ろ意外なほど素直に返してくれた。

「…ああ、そうじゃな。」

それが、正妻だとか愛人だとかに向けられる感情とはまた違うものだという事は、意外なほど素直に微笑み返した彼を見て直ぐに察するに至った。そして、そんな彼の笑顔を観た望東尼もまた、老婆心ながら高杉に対し、恐らく彼がかぐや姫に抱くのと同じ恋のような気持ちを抱いてる事を自覚したのだった。






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