下関新地会所の奉行ら追い出しに成功した高杉は、内蔵太を含む精鋭を率いて速攻三田尻へ向かい、戦闘なしでの軍艦拿捕に成功する。同時に、萩藩主が諸隊追討令ならぬ諸隊『鎮静』令を発布した事を聞いた。
選鋒隊や末家に諸隊の鎮静を下命。諸隊がこれに応じれば高杉ら遊撃隊は孤立する事になるが、最初『追討』とあった指令を、後に藩主自ら『鎮静』へと書き直したのだとも聞き、藩主が正義派への温情をお示しになられたものだと受け取る。
尚の事、藩主および藩政を正義の元に開放するべく覚悟を決めた。
高杉や伊藤らが英国から仕入れた最先端の武器を始め、これまで推し量ってきた軍備増強富国挙兵が、皮肉にも国内紛争に手その成果を発揮する時とも言える。前回山口政事堂を開放した時とは比べ物にならない、同胞との闘いが繰り広げられるであろう。
高杉は冷たい風が肌を切り裂いてゆくかの様に凍り付く甲板に立ち、降りしきる雪の中で赤いちりめん布を取り出した。四カ国艦隊戦争の折、はつみがいつもその腰に巻いていたものを『お守り』代わりにともらったものだ。
彼女に教えてもらったこの日に、大切な人を思う。
藩主、息子、家族、仲間…
そして、この『長州が真に立ち上がろうとする時』を見越し、常に孤独な戦いを強いられる高杉を支える言葉をもたらしてくれた桜川はつみ。
高杉は額に赤い布を巻きつけると腰の長刀を引き抜き、その覚悟を天に捧げるが如く、深夜の雪空へと掲げた。
※仮SS