仮SS/同床異夢:前編・後編
R18



―前編―


1月中旬。14日の京にて版籍奉還についての会合を控えて土佐湾を出航していた板垣は、その前に横濱まで足を延ばした。

これが三度目の正直。最後の『取引』とする為に。


 とある日の昼過ぎ、横濱英国公使館(領事館)へはつみを訪ねてやってきたのは、かの会津戦争を経て先月土佐へ凱旋した土佐の英雄・板垣退助の同志・真辺正精であった。元々は小姓役として山内容堂に仕えていたが、文久元年に乾が江戸留守居役となった頃から何かと彼と行動を共にしている、若く見眼麗しい武士である。

 真辺が『かの板垣退助』の使いとして横濱領事館へやってきた時、通訳官であるサトウはアレクサンダーへの引継ぎの為、江戸に出ていた。その為一番初めに真辺に対応した通訳官は『他人の恋愛事』に対して妙に敏感なミットフォードであった。ミットフォードを介してはつみが呼び立てられるが、ミットフォードがしれっとその場に居続けた為、三者面談の形となる。はつみは殆ど気にはしていなかったが、彼女がこの英国領事館に在籍しているのは半分『人質』の様なものでもあり、パークス公使も今となってははつみを受け入れてはいるものの完全に野放しとしている訳ではない。ミットフォード立ち合いのもと、真辺が板垣の待つホテルをはつみに告げ去っていったあとで、何か含みのある視線で目くばせをする。

「君のプライベートに踏み込みたい訳ではないのだけれど…『あの』板垣と会うなら、念のためサー・パークスに報告しておいた方がいいかもね?」

「そうですよね。早速報告してきます。」

「私も付き合うよ」

 ミットフォードと共にパークスの執務室へと向かい、板垣と会う事を報告する。彼との事にあたっては過去に2度程『スパイ書簡と疑われて実はラブレターだった』という流れで私的な手紙が晒された事もあり、パークスも妙に疑う事なく理解を示した。以前の様に『勘ぐり』が行き過ぎて、政務に全く関係のない女性のプライベートへ必要以上に介入するという、英国紳士らしからぬ醜態を犯さぬ様に振舞っているようにも見えたが。


 夕方、勤務を終えて外へ出ると、真辺が出迎えてくれた。
「え?!もしかしてずっと待っててくれたの?」
「ご迷惑でしたら、相済みませぬ。」
 武士らしく背筋を正しかっちりとした礼をとる真辺であったが、耳や鼻の頭などがだいぶ赤くなっているのを見ると、どうやら本当にずっとここで待っていたらしい。はつみは慌てて取り繕い、首に巻いていたマフラーを差し出そうとするが、真辺は一瞬驚いた顔をしてから慌てて固辞する。
「全然、迷惑なんかじゃないけど、寒かっただろうなって思って…今更だけど、これ使って?」
「―!い、いえ…滅相もござりませぬ。…ただ、板垣様の事を想うと、何としても桜川殿をお連れ致したく…」
 寒空の下、海風も冷たい港町で長い間待っていてくれたのは、一重に同志を想う武士精神故にであった。しかし板垣とは真辺と共に横濱の来賓向けホテルに向かいながら『もしや板垣に何かあったのか』と尋ねるが、板垣と直接話すようにと諭される。切羽詰まっていない様子からして体調が悪いだのという事ではなさそうだが、それ以上に…何となく思い当たる節もあった。

 この、料亭や宿に呼び出される状況…。

 いつぞやの状況と似ていると思いつつ、板垣の待つ場所へと向かう。




 西洋感溢れる洗練されたエントランスに入ると真辺が手続きを取り、板垣が宿泊する部屋の番号を伝えてきた。
「私は控えておりまする。何かありましたらば、このろびぃにて。」
 彼が同席しないという事は、やはり板垣と二人になるべくしてなる様な呼び出し目的だという事を察する。男が用意した部屋の鍵を受け取るという、遠い昔にドラマで見た様な『現代めいた』生々しいやり取りに妙な緊張を覚えつつ、ホテルの最上階である三階の部屋を目指した。


 長い階段を登るのももう慣れたものである。3階まで登り、該当のドアに対しコンコンと呼び音を立てると、思ったよりも率直な様子で板垣が現れた。

「おう」
「あっ…乾…久しぶり」

 といっても先月少し会ったばかりなのだが、先ほどの察し故に妙に心構えをしてしまって、思わず口をついて出てしまった。昨今、はつみも含め皆がこぞって洋装をとりいれようとする中、彼はこの横濱に来ても尚、毅然と和装姿で背を正していた。
「…まあ、入れ。」
「は、はい!お邪魔しま~す…」
 はつみが何を察しているのか、妙に緊張した様子なのを『やれやれ』と言わんばかりに迎え入れる板垣であった。



 このホテルは、現横濱において最高級の『洋風ホテル』である。といってもはつみが足を踏み入れたのは実は初めての事であり、板垣から部屋内に通される合間も、高く大きな窓辺から見渡せるオーシャンビューに思わず『うわぁ~』と声を漏らし、あちこち見回り始めてしまっていた。
「この『ほてる』いうがに来るんは初めてかえ」
「うん!通訳の仕事でロビースペースには来たことあるんだけど、お部屋に入るのは初めて!」
 あちこちの『ドア』を手慣れた様子で開けては楽しそうに内見を続けるはつみを見ながら、部屋の中央に置かれた大き目のソファへ腰かける板垣。「ほいたら、好きなだけ見たらええ」

 『普通』であれば、土佐参政である上に此度の戊辰戦争において官軍勝利の立役者という極めて高い立場にある板垣を気遣うべきで、この様に待たせるなどあり得ない事だろう。だが板垣は、はつみにとっては安政6年の出会い頭から変わらない1人の男であった。歯に衣着せぬ実直な物言いで『無茶振り』をしてくる、『乾』のままだ。そして板垣自身も、皆が恭しくして距離を取ろうとする中ではつみが変わらずにいてくれる事を、内心喜ばしく感じていた。

 あらゆる部屋を内見をしていたはつみであったが、最後の部屋を見た直後はなんとも言えぬ顔で出て来た。『ん?』と眉をあげる板垣。間もなくして、彼女が今見た部屋が大きなベッドの置かれた部屋だという事に気が付いて、珍しく吹き出してしまった。すぐに咳払いて取り繕い、はつみをソファに座らせる。
「…気が済んだなら、座れ」
「う、うん。洋風でお洒落なお部屋だったよ」
 見るからに愛想笑いを浮かべつつ戻ってきたはつみは、板垣に勧められるままにソファへと腰かける。そこから少々の沈黙が漂い、流石のはつみも『あれ…?』と緊張感を覚えた直後、板垣は話を切り出した。

「俺がここへ来た理由じゃが…」

「あ、うん。」

「ただ、白黒はっきりさせねばならぬ事がある故に、改めてここに来た」

 余計なお膳立てなどなく単刀直入に用件を話すのは、いかにも板垣らしい。髪を短くして、彼の男らしさがより前面に出ている様にも感じられるが…彼自身はなにも変わってはいないのだ。はつみにとっては、畏縮や嫌悪の対象とはほど遠い。よく見知った彼の個性そのものだ。そんな彼の話に、はつみは素直に耳を傾けた。…何を言われるのかは、なんとなく分かる気がして、自然と体に力が入ってしまっていたが。

「おんしを土佐の外国官として召し抱えゆう準備ができちゅう。それには土佐上士としての正式な身分が保証されちゅうが、おんしにその気があるんであれば俺の正妻として迎えちゃる。如何か。」

「うん…―えっ?!」

 思っていたよりも多い情報量に目をしばたかせるはつみ。聞き間違いでなければ、土佐の外交官、土佐の上士となる、あるいは板垣の正妻…という言葉が聞こえた…。思わず聞き返してしまったが、彼はいつも通りどこか余裕のある眉に不動の表情で真っすぐにこちらを見つめている。

 そう遠くない過去に、同じく土佐参政である後藤もサトウやはつみを特別顧問として土佐に雇おうとする動きがあったのは確かだ。だがその話を板垣が持ってくるのは少々意外であったし、特に後半の、極めて私的な提案については…。またその様な意思を彼が持っていたという事に、驚いた。
 視線を落として硬直気味となったはつみに対し、板垣は緊張した様子もなく背もたれに深くもたれ、話を続ける。
「その『えっ』いうがは、俺の個人的な召し抱えに対してかえ」
「いや…う、うん…」
 率直過ぎる問いにぎくしゃくしながら頷くはつみ。
「今更驚くような事でもなかろうが」
 板垣の言う通りであって、彼は安政6年、およそ10年前に出会った当初から、はつみを妻に迎えようとしていた。そしてその意思は今までにも数回に亘って直接はつみへと伝えられていたが、何かとウマは合うのに立場や距離、タイミング的に相容れぬ二人は、結局今に至るまで心を通じ合わせる事はなかった。それを埋め合わせる為の、共通の時間も殆どなかった。…出会ってから4年後、業を煮やした板垣の提案とはつみの利益によって『取引』が生じ、『取引として』身体の関係をもったものの、その事が二人の関係を、更に歪で割り切ったものとしたと言ってもいい。
 更にはつみからすれば、「『取引』として身体を重ねた事で乾の興味も満足したのでは」と思うところでもあった。彼には正妻がいたし、世間からは風貌からして異質な自分に興味があったとしても、身体を味わえればそれで気が済むのだろうと…。封建制度時代の日本は娯楽が少なく、男女の性行為はもれなくその「娯楽」の一つとなり、そこらの茶屋でも春を売るほど「積極的に」「軽率に」行われている。大奥然り、女性の性が政治や統治の裏面を支えていたように、板垣と自分の間「取引」もこの時代では珍しくも無い事なのだろうと…そんな風に考えていた。

―だからこそ、板垣がまだはつみを『娶ろう』としている事に驚いた。身体を求められるくらいである、板垣から気に入られている事は自覚していたが…

「…あの…今更聞くんだけど…」

 少しだけ気まずそうに切り出したはつみに対し、板垣は静かにまっすぐ視線を向けながら、受け入れの姿勢を見せる。

「私がそれを承諾したとして、奥さんはどうするの…?」
「無論、離縁する」
「それは、ダメだよ…」
 やっぱり…とばかりに俯くはつみであったが、板垣の方はそれこそ「今更」とばかりに、動じることなく想いを告げる。
「おんしを妾として迎える気はない。それに俺は今の妻を娶る前にも2度離縁をしておる。それが何故かわかるか?」
 板垣が今の妻を娶ったのは、はつみと出会った年の終わりの頃であった。その前に二度離縁していたのは初耳であり、当然、その理由など知るよしもない。
「『ちがう』と思うたからじゃ。」
「ちがうって何が?」
「俺もまだ若ぅて父上もお元気じゃったき。周囲が決めたおなごでは納得がいかんかった。」
 確かにその真っ直ぐすぎる簡潔な考え方は、板垣らしいといえば板垣らしいだろう。特に若い頃の彼は、数年にわたり城下追放処分を受けるほど、やんちゃ極まる青年だったらしいとは歴史上の知識として何となく知っていた。加えて今の妻を娶ったのも、『父親の体調が芳しくなく、近い内の家督相続を視野に入れての、家を挙げての見合いであった』『だから当時、婚姻を申し込んだはつみの答えを急いでいた』つまり乾退助という1人の男としては不本意な婚姻であったというのは、本人から直接聞いていた事である。それでも武家の嫡男としての揺るがない道をえらび、本人同士の婚姻ではなく『家としての婚姻を選び受け入れた』のだと。

 ここで更に、板垣は意外なことを言い始めた。
「国が開き、時代は変わった。当然守るべき我が国の風習もあるけんど、婚姻の概念いうがは諸外国の様にもっと自由に開放されて然るべきもんじゃと思う。」
「それは…そうだよね。わたしもそう思う。乾が言ってる事もブレてないなって思うけど…」
「そうじゃ。俺は好いたおなごを嫁にしたい。」
「………」
 淡々と簡潔に話す板垣の視線が、嘘偽りのない想い故にずっとまっすぐにはつみを捉えている。はつみはぐっと迫る胸を抑えながらもたまらず視線を反らしてしまうが…彼の想いを知ったからこそ伝えなければと、再び彼を見据えた。

 はつみは板垣の支援と言葉に何度も助けられ、支えられた。そこには『取引』があったのだとしても、板垣が自分にその価値があると認めてくれたからこそ『取引』に至れたのだと思うし、時代的、政治的背景を鑑みても明らかに乾の負担の方が大きかったと思う。本当に感謝の念に絶えない。
 しかし…自分は今の英国領事館での仕事と留学、世界へ開けた仕事に遣り甲斐を感じている。そして、板垣には感謝しているが、正妻を追い出してまで妻になる事はとてもできそうにないと…。
 率直なその想いを、彼に告げた。一句一句慎重に言葉を選びながら、できるだけ丁寧に。 「…わかった」

 はつみの誠意が伝わったか、或いは元々割り切っていたのか。板垣は表情を変えることもなく、意外とあっさりとそれらの申し出を受け止めた。だが、 「俺はおんしを諦める。その代わり、一晩床を共にしろ」  と、驚くほど率直に申し出た。 「えっ?!」 「これが三度目の『取引』じゃ。三度目の正直でもある。今回限りでこの馬鹿げた『取引』も、おんしへの未練たらしい心とも区切りをつける。…俺は白黒つけねば合点がゆかぬ性分やき」 「……乾…」  立ち上がった板垣がはつみの目の前に迫り、ソファに押し付けるように乗り掛かってくる。近付かれると、板垣の昔から変わらぬ上品な香りがふわりと鼻腔を掠めてはつみの思考力を奪い、初めての行為の時から性感と結びつけられる様に調教された成果なのか、思わず下半身が疼くのを感じてしまう。当然、そのように仕込んだ本人である板垣もわかっていて、このような行動に出ていた。 「ええか、これは『取引』じゃ。…今から明日の朝までは俺だけの女であると…素直に応じろ…そうすれば……俺はお前を諦めちゃる」  実に10年間、はつみへの想いを燻らせ、時に口付けを交わし、時に互いを慰め合うかの様に寄り添い肌を重ねる事もあった…。そういった関係に『白黒』付けさせたくて、  硬直するはつみの無言を「了」と受け止めた板垣は、ソファの背もたれに押し付けたはつみの上に跨がり、いつまで経っても可愛らしい細い顎をそっと指で捉える。顎を持ち上げられ強制的に視線を合わせる形となったはつみだったが、彼女は何も言わず、ただ静かに、どこか翡翠色が混じって見えるその浮世めいた美しい瞳に板垣を映し込んでいた。 微かに震えているのは、畏怖の念や不安からくるものではないだろう。  板垣の短くなった前髪が額に触れ、鼻先が重なり合う程に近付くと、まるで受け入れるかの様にはつみの瞳がそっと閉じられた。 …何故受け入れてくれるのかなど、もうどうでもよかった。 はじめから明確に拒絶さえしてくれれば、こんなにも慕情を募らせることも無かったとも思いながら…。はつみの顎先を支えていた指を滑らせる様にして、できる限り優しく、柔肌の頬を包み込む。 「…ただ、おんしを諦めるきっかけが…欲しいだけじゃ……」  そう本心を囁いて、ゆっくりと唇を重ね…食む様に口付けを交わした。 後編(ダイジェスト。)  行為は「契約の間」、つまり翌日の朝まで、板垣の気が済むまで続けられた。相性の良い体は幾度となく甘美な刺激を与え合う。板垣は「正形(まさかた)」と諱呼びを要求したり、耳が聞こえにくいからもっとよく声を聞かせろと言って直接肌や骨肉に声が響くほど抱き締める。そして、もう何度となく突き崩され、自身の愛液でトロトロになりきった蜜壺へと、正常位のまま再再再度挿入された。みちみちに締め付けてくる上に奥できゅっと狭まるその小径は、板垣の怒張し続ける熱棒の先端に吸い付く様な感覚をもたらす。ぬとぬとに濡れた吸盤の中へと先端を押し込み、吸い付かれながら引き抜くと、張り出したカリに引っかかる様な刺激を与えてくるのだ。この極上の攻めに眉間へ甘いシワを刻む板垣は、一旦彼女の最奥まで先端を押し付けたまま、華奢な腰を持ち上げて腿の上に乗せてやった。腰が浮くと、奥に押し付けられる角度が『丁度いい』ところに当たるのを知っているのだ。 案の定、良い所に当たってぶるぶるっと震えるはつみが、両手で顔を覆いながら見悶える。 「はあっ、あっ…それだめっ…またっ…またイっちゃう…」 「ええぞ…何度でもイけ…」  低く囁いて両手を伸ばすと、自らの顔を隠す彼女の手を取り、そのまま腕を伸ばす様にしてつなぎ止めた。両腕に挟み込まれた白い双丘が見るもいやらしく盛り上がり、ゆっくりと再開された律動に合わせてたゆたゆと揺れ始める。 「ーんっ、んっ、はぁ、いぬい…っ」  はつみの最奥、子宮口突き上げる様にしながら絶え間なく小刻みに責め続け、眼下で善がる彼女の顔を見つめる。頬から耳にかけてすっかり上気しきって、綺麗な眉をゆがめながら懇願する様な視線でこちらを見てくるが、時折強く瞳を閉じて快楽に抗おうとする姿が非常に煽情的だった。律動で絹糸の如き艶やかな前髪が軽やかに揺れ、両腕の間に収めた美しい乳房も同調して揺れる。そのきめ細やかな肌には吹き出した汗が球粒の様にきらめき、時折流れ落ちていくその様子が、まるで快楽に昂り続ける身体の声なき嬌声を伝えてくれるかの様にも思えた。 「あっ♡あっ♡はんっ…♡いぬいっ♡んっ、いぬいっ♡」  はつみの声色が鼻に抜ける様にうわずり、昂っていくのを感じる。一心不乱に名を呼ばれ、心が満たされる。 「―っ…ふふ……はつみ…そがぁに俺の名を呼ぶか…愛らしいのう……。」 「~~~っっ…だめ…♡」  吐息にまみれる低い声で囁かれると、はつみの奥がきゅうっと愛らしく締まるのが両者手に取る様に伝わる。板垣がまた吐息で笑うと、はつみは羞恥心で身をよじりながら、顔を背けた。逸らした先に見える首筋には、先ほどの挿入時に板垣が咲かせたいくつもの紅痣が強調されている。自分の呼吸も熱く上がってくるのを感じながらも珍しく笑みを漏らす板垣は、はつみの蜜壺がもたらす甘い拷問に耐えながら、更に力を込めて突き続けてやった。はつみにめくるめく快楽を与える板垣もまた、奥の締まる肉厚な小径へと抜き差しする度に張り出したカリが引っかかる感覚を覚え、もったりとした厚みと溢れ出る愛液でぬめる子宮口は、まるで口づけでも施すかの様にちゅぱちゅぱと先端に吸い付いてくる。力強く突き上げながらも、返り討ちの様に襲い掛かってくる快楽に耐えようとして筋肉が隆起し、汗が吹き出してゆく。 「はぁっ、はぁっ…さあ…そろそろ俺も、果てそうじゃ……」  追い詰められていく乾は何度目かの射精感を覚えはじめた。熱棒の付け根、更に奥の方からジワジワと競り上がる熱が、通り道の内側を擦る様に込み上がってくる。熱棒は更に充血して硬度を増し、ぞくぞくと背筋を這い上って来る射精感に思わず目を細めてしまう。掴んでいたはつみの腕を離すと、乾の腿の上で浮き上がっていた細腰を力強く両手で抑えつけた。固定されたまま最奥へと突き立てられた腰はまるで別の生き物の様にビクンと跳ね、男の力で抑え込まれながら更に植えつけられる快楽に打ち震え始める。 「―や、あぁっ!はげし…」 「このまま詰めちゃるき…おんしもイけ」  細く縊れた腰を両手で掴み、その奥に杭を穿つかの様に容赦なく抽挿を繰り返すと、間もなく、中の肉壁が微細な痙攣をおこし始めた。 ―ずちゅ、ずちゅ、ごちゅ、ごちゅっ―! 「―あっ!?ひっ、らめっ♡…いぬいっ、いっ♡あっ♡、あうっ♡」 「…イクぞ…はつみ…」 「~っ♡い…いくっ…いく、いくいくイクっ…!」  『イク』寸前になると『教えてくれる』癖があるのもとっくに見切っていた。そして、その瞬間、大好きな子宮口の部分にあたる腹部を手で押さえ込みながら突き上げてやると、更に大きく善がり、見事に果ててくれる事も。 ―ぐりゅっ!ごちゅ、ごちゅ、ぐにゅうぅっ 「んぉっ!おっ、んぅぅ―っ!!!♡♡♡」 ―ビグビグッ、ビグッ!!!プシーッ 「―ぐっ…!」  はつみは今日何度目かの潮を吹き出しながら、再び果てた。愛しい女の腹の奥から搾り出る様な本能の嬌声は、何度聞いても板垣の脳を鷲掴みにする官能を与えてくれる。そして彼女が『イク』と同時に強烈な肉圧で締め上げられた雁首が、遂に大きく弾けた。極めて耐え難い射精感が身体の奥から快楽の神経を逆撫でながら遡ってくる。狭い穴を押し開いて飛び出そうとする白濁の欲望を、全て彼女の最奥へと叩きつけたいと願いながらも、板垣は歯を食いしばってそれを引き抜き、彼女の高揚しきった顔へと射精した。 ―びゅるるるるっ!!!びゅうっびゅうっ…!!! 「―ううっ、…ぐ、……はぁっ、はぁっ…」 「―…あ…はぁ……いぬい……」 …顔中に浴びせられる精液を、舌を出して受け入れようとするはつみ。…好きでもない男のものを物欲しそうに飲みほそうとするその姿は極めて淫猥であり、彼女には淫乱の気があると思わされる。その表情を他の男も見たのか…或いは、今後見る事になるのか…。板垣はそんな事を想いながら、覇気を落とした棒をねっとりと舐め取らせ、さらにその後ゆっくりと、深く深く口付けをした。  頬や首筋を怪我した精液は独特のとろみを見せてはつみの肌を濡らす。こうして、彼女の肌は幾度となく放たれる板垣の精液で、あちこちを穢されていた。  果てた後も、余韻で震えるはつみ。何度果てを見ても、熱く疼くところへ『欲しい』ものを得られない名残惜しさがあるのか、腹の奥が切なげにふるふると震えていた。そこへ板垣の無骨な指がにゅるりと入り込み、敏感に震えている子宮口の辺りをぬるっと擦り上げる。 「ひうっ!?」  唐突にビクリと反応を示したはつみは、奥へと指をねじ込みながら顔を覗き込む様に覆いかぶさってくる板垣の肩を、制止させる様に掴んだ。 「だめ、いまっ…敏感っ…ぅあ、ああ…!」  しかし板垣は意に介さず、先ほどまで自身の熱で蹂躙されて敏感になっているであろう肉壁をはじきながら、高速に擦り上げていく。はつみは掴まる場所を手繰り寄せる様にして板垣へしがみつきながら、じんわりと快感が広がり始めた下半身に意識を持っていかれてしまう。 「やだっ、いぬいっ!いったばっかりだから…あ、あっ、ああ…っ!」 「臆せず存分に感じ入ったらええ」  珍しく笑みの吐息を漏らす板垣は、いやいやと顔を振るっている眼下のはつみに向かって顔を近づけ、軽く口付ける。そして― 「ほれ…もう一度見せてみい」  そう言って、中に入れた指先ではつみの善いところを狙った様に動かし始めた。途端、はつみの身体がまるで収縮するかの様に固く強張り、再び強くしがみつこうとする彼女の手が更に板垣を引き寄せようと力む。 「やぁっ、奥、もうだめ…っもうだめ、何でっ、何でっ♡」 「おんしはここが好きじゃろう。ん…?」 「ひあっ!や、ああっ!あっあっ♡、やだっ、いぬいっ…♡」  しがみつき、切羽詰まった様子で懇願しながらも感じ入るはつみ。板垣は手の動きを緩める事無いまま、何度も果てを経てだらしなく濡れるその唇に口付けてやった。躊躇なく舌を差し入れ、はつみの舌を絡めとると、愛撫してやるかの様に吸い付きながら舐め上げてやる。かたやたぷたぷに充血しきって敏感に震える子宮口を擦り上げる指先は、その熟れた神経を巧みにはじき続け、時折その形状に添わせるかの様に円状に撫でつけてから再び攻め立ててやるなど、緩急をつけながらはつみを昂らせていく。 「―んっんっ♡んっ♡!んうぅっ♡!ーーーーっ♡♡♡!!」 ―ビクビクンッ!ビクンッ!ビシャッビシャッ…  深く舌を愛撫され、『イク』と言えないまま指で果ててしまうはつみ。幾度となく吹き出す潮が板垣の手や布団をびしょびしょに濡らしていたが、板垣は満足そうに唇を離すと共に指も引き抜き、その手でゆっくりとはつみの口元を拭った後、頬を撫でてやった。 「上手にいけたのう」 「―はあっ、はあっ、…お願い…すこし、休ませて……」  ほんの少しの間に、はつみは気を失う様にして眠りに落ちてしまっていた。板垣ははつみを起こす事はせず、曝け出されたままの身体に手を添え、美しくも艶めかしい曲線美を堪能するかの様に撫でている。このホテルではつみと落ち合って、いかほどの時をこのようにまぐわって過ごしていただろう。窓の外はすっかり夜の帳が下り、皆も休んでいるのか静まり返っている様に見える。…少なくとも、今までの逢瀬よりもずっと激しく、何度も果てを極め続ける時を過ごしていた。はつみの身体にも負担がかかってしまったのかも知れないが……。  これが最後なのだと思えば思う程、この時が愛おしく、そして惜しいものであるとの実感が襲い掛かってくる。 「…俺の事が、忘れられんようになるやもしれんのう…」  『何故』といって気をやってしまったはつみに、今更ながら答える様に呟く板垣。いくつも咲かせた紅痣も、体中にかけた自らの欲液も、時が経てば消えてなくなる。だが忘れられない快楽を植え付ける事ができれば……彼女が意図せぬ自分の香りに反応してくれる様に、いつかこの夜が、板垣退助の熱が恋しく思う時が来るかもしれないなど…そんな浅はかな事を考える自分もいた。 「そうなったれば…いつでも土佐へ来い…そもそも取引なんぞ、はなから必要なかったんじゃ…俺は…おんしが求めるなら……俺は…」  一君万民を掲げ、私情を払い、一命を賭して次世代の統治に邁進している自分に偽りはない。―だがそれとは別で、この10年に及ぶ恋は自分でも驚く程、執念深いものだったらしい。しかし眠っている女に向かって何を本気で喋っているのかと閉口すると、おもむろに起き上がった。  うつ伏せに寝るはつみの背中や腰を撫でていたが、その手を更に下半身へと滑らせ、彼女の蜜壺へと指を沈ませる。先ほどまでの余韻はまだ十分すぎるほどに残っており、少し指を沈めただけでたぷたぷと溜まっていた愛液が溢れ出るのが分かる。漏れ出た愛液が、重力と筋道のままにとろりと花芯へ伝わっていく。粘膜に沿って中指を滑らせ、今は皮を被って姿を潜めている小さなつぼみに触れた。 ―ぬち、ちゅく、ちゅく、にゅち… 「…ん……ふ……」  俄かに溢れ垂れ込んでくる愛液をふんだんに塗り込んでいく様に、指先の腹でゆっくりと花芯を押しつぶしながら、こね回してやる。始めに散々舐め尽くしてやった時は敏感な反応を見せていたはつみであったが、やはり弱い部分なのか、眠っているにも関わらず身体がぴくぴくと反応し始めている。起こすつもりはなかったが、己の下半身の主張が強固になっていくにつれ、もはや手を止める気もなかった。ぬちぬちと音を発しながら小刻みに花芯を愛撫する動きは、眠りの淵に沈むはつみを着実に覚醒させていく。 「…んっ…は…あっ…?」 「…起きたか」  知らぬ内に枕を抱き締めていたはつみが目を覚ますと、すぐ花芯からの甘美な快感に肩をすくませる羽目になった。さらに、すぐ背後から耳元へと囁きかける低い声、そして彼の体温と清楚な香りが、寝起きの脳を震わせる。身体を強張らせ、紅潮しきった唇を唾液に艶めかせながら、はつみは首を逸らす様にして背後の板垣を振り返った。 「い、乾…んぁ、あっ…もしかして、ずっと…?」  彼女が話しかけてくる間も、花芯をこね回す指の動きを止めない。板垣は悪い素振りも見せず率直にうなずくと、更に耳元へ近付き、耳の奥に隠された性感帯を撫でてやる様に囁く。 「体は反応しちょったぞ。ほれ…わかるか。もうずいぶん膨れておる」 「ひゃ…あっ、いやぁ……」  板垣はうつ伏せにあるはつみの足を左右に開かせ、そこに自分の足を割り込ませ、膝を閉じさせない様に固定させた。そして指先で巧みに花芯周辺の柔肉を押し広げてやると、すっかり充血した陰核が外気に晒され、強調される。そのまま愛液をまぶした指先でぷりぷりと弾く様に捏ね、女の核さながらに肥大化したそれを扱き上げるかの様に愛撫してやった。はつみは途端に首を反らせてその奥を鳴らし、分かりやすいぐらいに感じ入る様子を見せてくれる。 「―ひぐぅ!うっ、ああっ!あっ、強い…うぅぅんっ!!!」  肥大化する事で被っていた皮から顔を覗かせる先端部分を撫でつけられると、抗いがたい快感が鮮明に背筋を駆け抜け、それを耐える様に身体が酷直する。それなのに腰だけは別の生き物であるかの様に、快楽から逃れようとくねくねと身もだえしていた。 「ひっ、いぅ~っ!そんな…したらぁっ…ひぁ!あっ、あぁっ♡」 「また声が上ずってきたのお。指でするも好きかえ」 「~っっ…!んっ、ううっ…♡」  卑猥に充血しきった陰核を指先で弄ぶ様に捏ね続ける。はつみは上ずる声を指摘されて今更ながら羞恥心を覚え、反射的に我慢しようと枕に顔を押し付けた。しかしそんな様子に構うことなく、板垣の指先の動きが優しくも小刻みに動き出す。明らかに刺激に弱い陰核へ小刻みな振動を与える様な愛撫へと変わると、溜まらず肩を強張らせ、顔も天井を仰ぎ白い首がのけぞって露わになる。それでも我慢できず、また嬌声を漏らし始めていた。 「ふあぁぁ♡あああ…やあぁぁっ♡」 「これが気持ちええか…こうか?」  狂ったように感じ入るのとはまた違った反応に気付く板垣。ぬめった舌先で舐め上げるのを好んでいた様に、強い刺激よりは優しい方が好いのだろうと悟った。すると指先をあえて薄皮の上に置き、そこから花芯を激しく擦り付けてやると、更に反応が良くなる。 「やぁぁ♡いぬいっ♡、それっ…んっ♡あっあっあっ♡」  中を突いて得る深い快感とはまた違う、鮮明で強烈な快感に腰がひとりでに浮き沈みしてしまう。勿論板垣もこの反応を察知しており、フと笑みが漏れるほどに支配欲が満たされていくかの様だった。 「ずいぶんとええ反応じゃな…。いつも自慰をする時は、こうしちゅうかえ」 「―いやっ、してないっ♡ふあぁ…そんな、してない…っ」  とんでもない質問を耳元で浴びせられ、はつみは羞恥心に撃ち抜かれた様に枕へ突っ伏し、首を横にふるった。追いかける様にして被さってきた板垣は、また珍しく片方の口角を挙げて目を細め、はつみの耳元にその吐息がかかる程、唇を寄せて囁く。 「…ふふ……うそをつけ」 「ひあぁぁ…だめぇ…あぁぁ…♡」  唇を押し付けられた耳元に、乾の低く吐息に濡れた甘い声が響く。耳奥まで入り込んで舐めとられるかの様に脳を震わせてくる上に、その『甘い声』が大問題だった。日頃無骨な彼がそのような声を出せるのかと耳を疑うほど、何というか、好意に溢れている。どこまでも鈍感なはつみにも直ぐに聞き分けが付くほどに…。そのギャップにこそ乾から寄せられる好意を感じて、尚更『きゅん』としてしまうのだ。それでいて、むせ返る様な熱気で胸元から香ってくる彼の上品な香りも、飽き足らずはつみの鼻腔を突き、理性をはぎ取っていく。  はつみがそんな状態になっているなど思いもしない板垣は、ただはつみの反応に気をよくして更に愛撫を続けようと手を動かした。時折花芯全体の質量を楽しむかの様に大きく揉み込んだり、繊細に細かな円を描きながらすり潰す様にしたりと、緩急に富んだ動きで愛撫を続けながら、目の前で善がる彼女を見つめる。敏感な花芯を散々に弄ばれ、たまらず顔を押し付けた枕から口の部分だけを解き放ち、切なくも甘い声をあげ続けるはつみ。緩慢な愛撫に彼女が息を整えようと油断した所でまた、彼女の好きな愛撫で高速に責め立てていく。 「あっ…ああっ、やぁぁっ♡それだめ♡それだめえええっ♡」  溢れに溢れてくる愛液が、縦横無尽に翻弄される花芯へと勝手に垂れ込んでいく。それもまた潤滑の本領を発揮し、泡立ちそうな程ににゅちにゅちと高速になぶられる花芯は、驚くほど一気に昇り詰めていった。 「これでイかせちゃろう。思いっきりイけ」 「いやっ!あっ、はあっ♡は、あっ♡あーっ♡あーっ♡」  たまらず肘を立てて身体を起こしたはつみは、下手に枕を抱き締め、そこに顔を押し付ける様にして花芯への愛撫に見悶える。板垣の手は確実に仕留めに来るかの様に花芯を翻弄し続ける他、更にははつみの直ぐ耳元へと迫り、愛らしく真っ赤に変色した耳の中にまで舌を這わせてきた。花芯を弄ばれる快感と脳を舐めとられる様な刺激に、強く閉じた瞼の中でいくつもの小さな星がはじけ、チカチカと霧散していく。何も触れていない子宮の奥もまた、きゅんきゅんと切なげに震えた。 「んふぅっ♡だめぇぇ♡…~あっ♡いくっ♡いく♡」  はつみの声が一層甘みを増し、鼻に抜ける様な愛らしい響きを伴ってきた。強張った身体からは汗が吹き出し、腰がぶるぶると震えはじめる。 「―ああ、イけ。よぉく見ちょっちゃるき…」  そう言って、ダメ押しの様に陰核を擦り付ける。垂れ込んでくる愛液にまみれた肉芽を細やかに、だが乱暴な程にチチチッと刺激し続けてやった。一気に昇り詰めていく快楽にはつみの体は背や首をのけぞらせ、その口角からはよだれさえも垂れ始めている。尻肉をぎゅううっと引き締めたまま硬直し、来るべき解放を待って打ち震える。 「あぁぁあ♡い、いっちゃう、いぐいぐっ、…いぐぅぅっ…!!♡♡」  ―ビグンッ!ビグッビグビグッ!!!プシーッ!!!  布団の上に放り出されていた両足は硬直した様にビンと伸ばされ、潮を吹くと同時に額や背中にも汗をも吹き出しながら、腰を大きく跳ね上がらせて果てる。 「…ようやった…。…可愛かったぞ…。」 「~~~~っ…」  頭を撫でながら耳元でささやく板垣の言葉に、果てたばかりの下半身の奥が熱く疼く。言葉にならない思考で受け止め、緊張の解けた身体にくすぶる余韻に沈んでいたのだが…。身体を起こした板垣が、はつみの両足を閉じその上にまたがる様に据わり込んだのを察知して俄かに振り返る。すると彼はためらいもなくはつみの美しくも愛らしい尻肉を鷲掴みにし、両の親指で蜜壺辺りに迫る柔肉を思い切り押し広げた。 「―っ!?」  驚いたはつみが上半身をひねる様にして起こしかけるが、板垣は両手で押し広げた入口に向かって熱棒の先端を押し付ける。すでに自立して天を仰ぐほどに再度の怒張を見せていたそれは、真っ赤に充血して膨れ上がり、せり上がる血管の先ではち切れんばかりに揺れる雁首は、先走る液でぬらぬらと夜の光を反射している。 「入れるぞ」 「―ちょ、まっ…」  そう言って躊躇なく、ぐにゅりと挿入した。 ―ずにゅうぅうっ 「―ひぐうううぅっ!?」  花芯への刺激で果てたはつみの奥はすっかり仕上がっており、板垣の固く怒張した熱棒を受け入れながらも、挿入されただけでビクビクと果てを極めてしまう。一体どこからこれだけの液体が湧いてくるのかと言うほどビシャビシャと潮を吹き出していたが、板垣は構わず、きつくまとわりつく小径を押し広げる様にして熱棒を押し込んでいった。 「…は、あぁ、ぁん…♡いぬ、い…♡」  この角度がたまらない…。挿入の瞬間から甘すぎる疼きが腰全体を蕩けさせ、奥に到達して押し込まれただけでぞわぞわと肌が粟立つ。緩慢な動きで奥を捏ねられれば、腰が溶けるのではと思うほどの快感が背筋まで駆け抜けていった。何かを伝えようとして首をのけぞらせ、乾の顔を見ようとしてくるはつみに、挿入の体勢を整えた板垣はゆっくりと後ろから顔を近づけ、口づけをした。 「―は…ちゅ…はぁ…ちゅぱ、ちゅ…乾…」  熱量を込めて口付けをされるのは、下半身で繋がる事とは別の感情が揺さぶられる。はつみが何を思ってその瞳を潤ませ、口付けを受け入れているかは板垣には分からなかったし、はつみもまた、板垣が何を思って、そんなにも眉間にシワを寄せ辛そうな顔をしているのか…分からなかった。考える余裕も無かった。  ねっとりと舌を舐られながら、甘すぎる嬌声を漏らすはつみ。奥に差し込まれた剛直がぐりゅぐりゅと快楽の芽を押しつぶし、ただそれだけなのにもう限界とばかりにビクビクと痙攣が始まっていた。 「―は、あっ♡れろ、ちゅ、ちゅうっ♡ん…んっ…♡」 「…ちゅ、ちゅう…―はぁ…れろ…ええ具合じゃ…はつみ…ん。」  絆されきった子宮の入口が、怒張し続ける板垣の先端部分に押しつぶされる度に甘く吸い付く。厚く蠢きながらみっちりと獲物を咥え込んで離さないその名器で、絶えず板垣の剛直を扱き上げていた。もっと深く、はつみの好きな角度で好きな奥に届く様にと、腰に力を込める板垣。その内たんたんたんたんと軽快に始まった抽挿を受けて二人の口付けが解消されると、板垣の口元からしたたる唾液をだらしなく晒したままの舌先で受けながら、はつみが甘く喘ぎ始めた。板垣はその様子を、口づけを離しただけの距離感で、目前に見つめる。これまでにない体位でよほど気に入ったのか、はつみの声はいつもよりも熱っぽく、淫猥な響きを増している様に聞こえた。 「あっ、あ゛っ♡、あたる…奥っ♡奥♡あたってる、うううぅ♡」 「ああ……気持ちええか…?」 「ひもちいぃ…♡あっ♡はぁ♡きもちいい♡♡」  はつみに『気持ちいいか』などと聞いたのは初めての事だった。このような身体だけのいびつな関係で、真正面から愛を囁いたり行為の感想を聞いたところでと思う所もあり…何より、受け入れられない自分がいたからだ。だがこれが最後だと思えばこそ、今この瞬間が切ないほどに惜しい。くだらないと思っていた言葉も、はつみを愛せば愛すほど、本当は囁き続けたかった言葉たちなのだと…。気が付けば、自然と口元から零れ落ちていた。そして、彼女は板垣の心中など知る由もなく、大輪の淫乱な華を咲かせるがごとく、素直に善がって見せる。 「ほうかえ……これが本当の最後じゃき…よう味わえよ……っ」 「~うっ、はあっ、あっ♡あ゛っ♡はげしっ♡やあぁ♡」 「……好きじゃ…」 「ーっ!乾っ…ひぐっ♡…う、はあっ♡、まって…まってぇ…」  腹の奥底から広がる快楽に翻弄されるはつみの耳に、板垣の言葉が届いていない訳ではなかった。だがその事について深く考えたり、彼に聞き返す前に次の衝撃が絶え間なく襲い掛かってくるから、強制的に思考を中断させられる。それでも、彼がどこかいつもと違う様子で顔を顰めたり、普段言わない様な言葉を囁いたりする事は感じ取っているから、喘ぎながらも視線だけは彼を追おうとする。 …そんな彼女の視線が…表情が、全てが愛おしくて… 「おんしの声を、肌の甘さも…熱も…忘れとうない…全部、俺のもんにしたい…!」  切実な愛の言葉を囁きながら、絶頂を与え続ける。そしてついに自身の先端が快楽に爆ぜようとした瞬間、彼は極限のところで躊躇った。『月経が再開したから、子供ができてしまう…』等といって、武士の子種を平然と断る様な女の奥深くに全てを出し切りたいとする衝動を、『彼女の為にも、中には出さない』とした決意がわずかに上回る。 「―くっ…」  どうにでもなれと限界まで抽挿を続けていた剛直を一気に引きずり出す。その摩擦でまさに果てようとする雁首を、両手で押し広げた彼女の尻たぶの狭間へと押し付けてやった。果てて潮を吹き出すと同時に思いもしない場所に押し込まれ、声にならない声を上げるはつみ。 「―きゃぁっ!?ふあっ、ああっ!?」  ―どくんっ!!!!びゅううううーーーーっ!!! 「―っぐうっ!!……う、……っ!…………かは…っ」  びゅるるるっ、びゅっびゅるっ…びゅるるるっ…… 「…あっ…あっ……中に……んんっ……」  板垣の最期の欲望は、彼女の菊に雁首を押し付ける形で一斉に放流された。挿入こそしていないものの、尻肉ごと押し広げられたそこにびったりと押し付けられたまま力の限りに射精をされ、熱い白濁液が溢れ出る様にどぷどぷと零れ落ちていく。そしてその内のいくらかは、板垣の願望のままに彼女の内部へと注がれていった。…場所はどこであれ、はつみの『中』に出す事がたまらず、これほど腹の底から快楽を伴う射精をしたことはなかったと言える程の経験として、彼の脳を塗りつぶしていく。  一方、そもそもはつみにとって膣内へ出される事自体は初めてではなかった。絶頂時にあの熱い波を子宮口に浴びる快感を知らない訳ではない。だが板垣は…乾はいつだって、中で出そうとはしなかった。子供ができない体質だったとか月経が始まったからとかに関わらず、彼は彼の愛の形を以て、自分を求め続けてくれていた事が伝わっていた。だが今日の事は、きっと彼にとってその箍が…枷が外れた出来事となった。それはすなわち、本当に『最後』を意味するが故の事だったのだろうと、察するのである。  長い射精を終えた板垣は、いつもよりも長めに続いた筋肉の緊張が一気にほどけ、深く息を切らしながらはつみの背中へと覆いかぶさった。薄桃色に上気したうなじに頬を押し当てると、その汗ばんだ甘い皮膚に口付けては吸い付き、新たな紅痣を…そして最後となる紅痣を刻む。そこではつみは、背中に程よい重さで沈む板垣とその息遣いを感じながら、薄れゆく意識の中でぽつりと呟いた。 「……ごめんね……乾……」  聞き覚えのある台詞にハッとして顔を上げた板垣は、掻き消えそうな声で呟いたはつみを見下ろす。彼女はすでに瞳を閉じていたが、その目尻からは、先ほどまでの行為とはまた別の意味で溢れた涙が、ぽろぽろと零れ落ちていた…。  その涙は、きっと自分の為に流された涙なのだろうと感じる。このように交わりを以ても、結局はつみと心から結ばれた訳ではない。つまり、彼女は罪悪感故に涙を流しているのだろうと。  そして紡がれた、聞き覚えのある台詞。初夜を過ごした時に彼女が放ったのと同じ台詞。罪悪感に涙を流しながら謝罪をするその真の意味を、今ようやく理解する事ができた気がした。  彼女は初めから、自分の事を伴侶に値する男として欲してはいなかった。 彼女にとってこれは『取引』であり…或いは、同情であったのかも知れない。 …何度体を重ねても、心が重なり合う事はなかった。  重なり合うはずもなかったのだ。 「……何を間違うたんじゃろうな…俺は……」  汗も涙も愛液も精液も全てをそのままに、寝息を立てはじめたはつみの顔を覗き込む。零れ落ちた涙を指で拭い、掌で額の汗を拭き、汗に濡れた前髪をすいて整えてやった。  過去の選択について振り返るなんて、女々しいにも程がある。それに、彼女との関係がすれ違ったのは、自分が『代々続く土佐馬廻り格・乾家』を第一にと考え、自らはつみを手放したからという自覚はとうの昔からある。 はつみ以外の女と結婚をしたのだから、はつみと結ばれる訳がない。 極めて単純な事だ。  そしてそれは、武士としては最良の選択だったはずだ。それを『間違えた』というのかと、己を罵る声が聞こえる。 ―だがどうしても、後悔せずにはいられない程…やはりはつみが愛おしかった。 「…これで終いじゃ」  ほのかに赤みの残る彼女の頬に、そっと口づけをおとす。掌で彼女の髪を撫で、白くて柔らかな耳たぶ、細い首、しなやかで健康的な、それでいて艶やかなその体を撫でる。 …そして気が済むと、ようやくはつみの上から退いて隣へと転がり、横になったのだった。 ・ ・ ・ ・ ・ ―翌朝。  はつみが目覚めると朝になっており、やっぱり板垣の姿は無かった。  体中体液まみれのまま気を失ったと思ったが、大方綺麗に拭われている事に気付く。ふらりと足を運んだリビングを見渡すと、ダイニングテーブルの上に何かが置いてある。モーニングサービスの朝食、それから…見覚えのある脇差だった。  いつも彼が差していた、大小の内の一振りである。大の方は別のものへと持ち換えたりしていた様だが、この脇差には忘れられない思い出がある。乾と出会ったばかりの安政6年の頃、まだ未婚で三人目の正妻を娶ろうとしていた彼から求婚された外出先で、猪に襲われた時に振るわれた脇差だ。当時の自分には躊躇うことなく目の前で振るわれた『斬撃』に血の気が引き、動揺するあまり、彼の想いを公正な判断で受け入れる事ができなかった。もっと遡れば、この世界に来たばかりの頃に月之瀬橋近くの離れ庵で軟禁されていた時、突然現れて力強くも優しくしてくれた乾が差していた脇差でもあった。 …出会った頃からずっと持ち続けていた脇差を、武士が置いていくという事…。  昨晩の彼が言っていた通り、決別の道を選んだという事なのだろうと察する。  はつみは裸体にガウンを羽織り、ベランダに駆け出して港を見下ろした。すると、早朝朝焼けの中、まさに土佐の帆船が出港しようとする所だった。  一方、土佐船の上では、双眼鏡で周囲を見渡す遠見役がホテルの一室からはつみが手を振る姿を捉えていた。周囲の者達も俄かに気付き、何やら珍しいものでも見るかの様に話題となっている。 「どういた」 「板垣様!はっ。あそこの西洋の宿から、女子が手を振っておりまして…皆それを見て騒いでおりまする。」 「何?」  報告を受けた板垣の不動の眉が潜む。当然、示された『西洋宿』とは、今朝まで自分が宿泊していたホテルの事であった。手渡された双眼鏡を覗き込んでみれば、ガウン姿のはつみがこちらに向かって手を振っているではないか。だが周囲の目を引いたのは単に女が騒いでいるというだけではない、その理由も明確に見て取れた。目覚めて自分がいない事を察して慌ててガウンを羽織ったのだろう。大きく手を振る動作に胸元がはだけ、乳房が見えそうだったのだ。下半身に至っては太ももの際どい所まで丸見えである。 「…何をしちゅうぜよ…まっこと、淫気の強い女子じゃ……」  呆れながらも、苦笑めいた笑みが宿る。すぐ隣で板垣の様子を見守っていた遠見役は少し驚いた表情をするが、上官の見てはいけないものを見てしまったかの様にすぐ視線を逸らし、背筋を伸ばした。そして次の瞬間、板垣が戊辰戦争時さながらに声を張る。 「おんしら何をよそ見しちゅうぜよ!出航じゃ!!!」 「ぁ、はい!!!!」  甲板上にいた男達は全員背筋を伸ばす勢いで返事をし、思考を切り替えて出航体制を取り始める。遠見役には「もう見るなよ」と釘を差しながら双眼鏡を返し、稼働し始める船の振動を感じながら、甲板上を歩き始めた。  最後にもう一度ホテルへと視線を向けると、彼女はまだ手を振っている様に見える。仕方なく片手をあげてみせると、どうやら気が付いたのか一瞬動きが止まり、その後また、今度は飛び跳ねる様にして手を振る様子が見て取れた。 「…どういう感情ぜよ。…恐ろしい女子じゃ。」  だが、全てにおいて悪い気はしない。色んな意味で清々しい船出を迎えていると実感していた。板垣ははつみに背を向け、吹き抜ける潮風と眩しく差し込む朝日を正面から受け止めるが如く、船首に立つ。  長年の恋を諦めた直後だったが、彼らしく白黒はっきり決着付き、心身ともにも大変満足している様な顔立ちであった。  はつみはその後ホテルの貸し切り風呂に入り身を整えたが、板垣が用意してくれていたモーニングサービスを利用する事なく、豪華なホテルを板垣の名前でチェックアウトした。当然ながら、会計も全て板垣が済ませている。  初めての朝帰りという形で自宅に戻る。心配して…しかし相手が板垣なだけにある程度予想していた様子で出迎えた寅之進には丁寧に謝るも、当然、その内容を話す事はしなかった。寅之進も、深く聞こうとはしない。  そして板垣への拭いきれない罪悪感と感謝に張り裂けそうな心をなんとか平静に装い、今日も英国公使館へと出勤するのだった。

仮SS