仮SS:ラブ・レター


 2月14日。乾ら東山道先鋒総督軍が、東山道へ向け出陣する。彼らが移動を始めた頃、小松庇護のもと戦禍を逃れる為に大阪薩摩藩邸へと移動していたはつみのもとに、乾の長年の戦友・小笠原唯八が一通の書簡を持って現れた。

 小笠原は乾や佐々木三四郎と勤王の誓いを立てた生粋の土佐勤王派であり、上士としての士分を守りながらも土佐の勤王思想を守り続けてきた戦友でもある。彼は陸援隊に所属していた為、陸援隊が拝命した帝及び都の警護を担う御親兵としてこの地に留まっているのだと話す。許されるなら乾とともに行きたかった。戦死するを以て本懐を成すとするのなら、錦の旗のもと、乾の指揮のもとに在りたかったと漏らした後、我に返った様に気丈に視線を上げる。神妙そうに聞き入るはつみに「いらぬ話をしてしもうた。」と会釈をし、乾から預かった書簡を届けて去っていった。


 はつみは小松の庇護を受けているといっても決して自由の身分ではなかった。屋敷の中ではある程度の行動は許されたものの外出は許されず、来客やこういった手紙のやり取りも必ず監視の目が入った。もっと言えば、龍馬が亡くなったという報告は受けたがこういった幽閉状態であったためか、葬儀というものにすら参列する事ができなかった。…彼らとは、今新政府として覇権を握っている薩長土の人達とは違う目的を以て行動していた為、少なからず警戒されている。薩摩ら討幕派らにとって、今はどんな不穏分子も押さえておきたいところなのだろうと考えれば今の状況にも納得できたが、長い月をかけてその大きな愛に気付き、そして愛し始めた龍馬亡き今、はつみにはもはや何かを起こす気力などあるはずもなかった。

 今もまた、「すまん。念のため、確認させていただく」と言いながら乾からの書簡を確認する小松に、無気力で抗う事もしなかった。


 その小松が文を読み終え、持つ手をおろしたと同時に妙な表情をしていた事に意識が引き寄せられる。紙面を受け取りながら一体何が書かれていたのかと目を走らせると、そこには草書…崩し文字で勢いよく書かれた文字が並んでいた。

 あの様な大役を担った上に出陣前という事もあって、忙しかったのだろうか。特異な才が際立つはつみは草書を読む事ができなかった為、傍に控えていた寅之進が『翻訳』し読み上げてくれたのだが…。読み上げる寅之進の言葉がぎこちなく響いていくのと同時に、無気力なはつみの表情にもわずかな『苦笑』が浮かんでいく。



『志遂げた後もまだこの命があったのなら、君を迎えに行く』



 その内容は、いわゆる『ラブレター』であった。





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