アレク、サトウ、チャールズ、ベアトがはつみとの誼で白石邸に招待される。はつみがユーライアラス号に招待された事を受け、こちらからもおもてなしをするべきだという伊藤の提案であった。はつみが和紙に描いた手製の招待状を手に、彼らはハーフダースに値するワインやビールを持ち込んでおり、とてもリラックスした様子で白石邸に現れていた。
この宴には高杉こと宍戸行馬、伊藤も合流。龍馬、寅之進、陸奥、お万里が参加。当然、伊藤、はつみ、寅之進、それから陸奥も、通訳をしながらの『パーティ』となる。高杉とお万里もはつみからもらっていた単語帳を用意しており、今日の交流を機に大分単語が追加されていった様だった。言語を教え合う、これもまた一つの交流として盛り上がりを見せていた。
はつみとお万里、白石邸の料理人とで作った料理がふるまわれる。鶏肉や白身魚を中心に味付けやアレンジをはつみが監修して『焼き』をメインとした調理がされたのだが、かなりウケがよかった。更にアレクからのリクエストで『おもいでのふわふわパンケーキ』を作るために皆でメレンゲをたてる大会が勃発。サトウらが持ち寄ったワインが良く進む。
宍戸行馬(高杉)が上海帰りの長崎で手にしたジャパン・パンチに『チャールズ・ワーグマン』の名が書かれていた事を思い出して口にすると、チャールズは非常に歓んだ。サトウは日本に来る前の上海滞在記にジャパンパンチではつみの事を知ったといい、これに呼応した宍戸は『もしや『抑圧されたミューズ』のことか?』と尋ねると、サトウやチャールズは声を合わせて『YES!!』と叫び、ハイタッチをしてきた。(ノリノリでハイタッチを返す龍馬と伊藤・困惑しながらも笑いながらハイタッチする高杉。お酌をしていたお万里までハイタッチをさせられる。)ワーグマンは文久元年の横濱ではつみと出会い、スケッチをさせてもらった。と話し始めた。
『当時は公式の会議でもオランダ語を介した二重通訳が行われているぐらい英語を話せる人が少なかったし、何と言っても男装の麗人だなんて非常に興味がそそられる。彼女の事が忘れられなくて、母国の人達にも日本にはこんなに素晴らしい女性がいるんだと紹介したい気持ちが溢れてしまってね。キャラクターとして起こせば、人気も出ると思ったんだ』
そして、そのキャラクターの事が読み手に対して良く伝わったという事は、経緯など何も知らずに何気なく手にした高杉が『はつみに似ているな』と感じたというエピソードからも明白だった。そしてワーグマンは日本をどんどん好きになり、いまとなっては日本人女性を妻として迎え、子供もいるのだと話す。以前であれば『手籠めにされた』『汚された』などと罵られるであろう事も、今ここにいる彼らの親日ぶりを見ていれば決して罵るべき対象ではないという事が高杉たちの心にも芽生えていた。対して『君たちは結婚していないのか?』という話題となり、それが独身の龍馬に及ぶと『結婚は興味ないのかい?想い人でも?』と尋ねられる。彼ははつみとチャールズが出会った横濱にちなんで、その時龍馬と寅之進もはつみと一緒に横濱に居たのだと話す。それから、今は新選組として京で名を馳せる一番隊隊長の沖田総司も同行していたとも。驚く一行。その時に買ったロケットを見せ、実は実家からはつみを嫁入りさせろと散々言われていた事もあり、これを渡すつもりでいた。今となってははつみの才が大きく開かれ、こうして異国の人達の間でも大きな存在になっているから、やはり彼女は世界に飛び出していくべき人材で間違いなかった。渡さなくてよかったと思っていると述べる。サトウはすかさず『それを渡せば、はつみは君の妻になったのか?』と意味深に訪ね、『流石!鋭いのお!』と龍馬はおどけてみせた。はつみは記憶を失って土佐にいるところを保護された身の上で、その保護をしていたのが龍馬の実家・坂本家なのだと説明。はつみは早い内から藩内の要人からその海外知識などの才を買われ、女子の身でありながら他に類を見ない対応で長崎や江戸にまで遊学に出ていた。日々の生活からそういった留学に関してまで全て坂本家で面倒を見ていた。そんな家から『嫁にこい』と言われたら、断りたくても断れないだろう。自分にとってはつみは妹のような存在であり、そのような事で縛りたくもなかった。…とまで話すと、突然ワーグマンが龍馬を抱き締めて来た。龍馬の『深い愛』に感極まっており、サトウも拍手をしてその『愛情深さ』に敬意を示す。高杉や伊藤、お万里も『そういう目』で温かく龍馬を見つめていた。
「ちょ…みんなして何ぜよその目は!?やめぇやめぇ、そういうんではないち、何べんも言うちょるじゃろう!?」
「それなら、そのロケットとやらの中身をみせてみたまえ。それは中にホトガラフを入れるものだという事は知っておるぞ。」
長崎上海帰りの高杉は強敵だ。龍馬はおもしろおかしくもクッと堪える変顔をしてみせ、逃れられないと腹をくくったのか『きょうだい愛ぜよ!きょうあい愛!』と言いながら、江戸の影真堂で撮影したふたりの写真をみせてやるのだった。
『美しい兄弟愛だからこそ、他に好きな女性もできず結婚もしないと。そういう事ですね』
「フフン、サトウ殿はなかなかいい筋をしておるな」
「その話まだ続けるんか?まったく困ったお人らぜよ…」
一方、はつみはアレクに対して『シーボルトおじさま、長州の人にピアノを贈ったって話はしていなかった?』と語り掛ける。老シーボルトのピアノ。はつみが知る『現代』においては日本最古とされていた。はつみはアレクの父が長州人にピアノを贈り、それが日本最古のピアノとして見つかった事を記憶しており、その事を伊藤に打ち明けたのだった。
『わたし、少しだけどピアノを弾くことができるのね?それで、音楽に国境はないって言うし、しかもおじさまが贈られたピアノで音楽を奏でる事ができたら、なんだか感慨深いなって思ったりして。』
『…すばらしいです…。僕はあなたのそういう感性に凄く…共感します』
酒が回っているのかもう涙目になっているアレクは、成長したその手ではつみの手をそっと握り上げる。普段は割と陰気のある目元が甘く蕩けながらも熱を以て見つめてくるので、流石のはつみもタジタジになってしまう。陸奥が白けた顔で間に割入り、すかさず寅之進が酌を進めて手元を誘導するなど、一連の流れを見ていた一回り程年上のベアトは、カメラの性能がもっと良ければ今まさにこのシーンを撮影して残したいのになと思わずにはいられない程、彼らの『若い恋模様』を見守っている。
酔いが回ったアレクは父のピアノに強い興味を示しながらも、寅之進の腕に抱かれる形で睡眠に陥ってしまった。それに気付いた陸奥は大笑いし、これは絶対に残しておきたいワンシーンだと察したベアトはとなりのグループで会話をするワーグマンを呼び、スケッチをしたらどうだと進める。もちろん、チャールズは大大大笑顔で寅之進とアレクをスケッチし始めた。これを機にとなりで盛り上がっていたサトウら一行もはつみらと合流し、徐々に酔いつぶれる者も出始めながらもパーリーは朝方まで続くのだった。
※仮SS